二限目(2-2)夏休み中でも、お兄ちゃんでいっぱい!?

 この四月から教員として働き始めた兄たちは、部活動改革にも着手してきた。これまで教員主導だった指導スタイルから、出来るだけ生徒自ら練習メニューや個々の目標を立てて取り組むといった運営スタイルに変更。

 顧問は原則、アドバイス役や実技指導の見本を見せる役に徹底し、生徒同士で話し合い、試行錯誤しながら取り組むスタイルに重きを置いた。

 さらに、運動部を中心にほぼ毎日行っていた練習スタイルも止め、練習期間は原則週四日で平日の上限時間は二時間のみ。


 その他、ダラダラ同じ練習を続けても集中力が保てないとの理由から、『主所属以外の部活動に参加可能月間』と『大会前集中月間』とに分けてメリハリをつけた。様々な部活動を経験する中で、視野が広がっていくという相乗効果も狙っているらしい。

 これにより、生徒は参加部活を一つに限定しなくても、本人の希望で複数参加することが可能になった。

 書道部やパソコン部といったいわゆる文化部系は週一や週二での実施がほとんどなので、『主所属以外の部活動に参加可能月間』の時は運動部と併用して興味ある文化部に参加しやすくなるし、『サッカー部+バドミントン部』といった主所属の運動部と副所属の運動部を兼ねることも可能なのだ。

 何なら『英会話部+テニス部=薫お兄ちゃんフルコース部』なんていう、お目当ての『王番地先生』を狙った部活選択をする生徒もいるくらいだ。


 最初は、この大改革過ぎる案に難色や戸惑いを見せる生徒や教員、保護者は多かった。

 しかし、四月から六月までお試し期間を設けてやってみたところ、思いの外生徒たちは伸び伸びと自由に活動することができ、対外試合や各種コンクールでも上位成績を収めることが増えてきたため、今では完全にこのスタイルが定着。保護者の評判も上々とのこと。

 この篠花学園は地域の有力者である王番地家一族が学園創立に深く関わっていることもあってか、いわゆる上流階級に属する家庭の子どもが入学してくることも少なくなかった。

 学業においても、部活動においても、我が子に対してよりハイレベルな指導を期待してくるため、担当教員への負荷も相当なものだったらしい。

 しかし、今年度は兄たちの改革が功を奏し、他の先生方は自分の専門教科への指導に重きを置けることになったので、たいそう喜んでいるとのこと、だった。


 そんな大きな改革の中でも、私は一人ブレずに家庭科部のみ所属し、夏休み前の活動では顧問の小林先生と一緒にお菓子作りに励んでいた。

 お兄ちゃんたちは、『副所属制度をせっかく作ったのに、何で(俺たち・僕たち)のところに入ってくれないんだ!?』なんて喚いていたけど、完全無視。部活動まで、お兄ちゃんたちにべったりされるのはノーサンキューだ。


 ちなみに今回の活動テーマは、『暑い夏の日に、一生懸命部活動に取り組んでいる他部員への差し入れ物』だ。

 ただし、食中毒の危険性もあるため、作るものは全て家庭科室の冷蔵庫もしくは冷凍庫で保管できるものに限定し、衛生管理も顧問の小林先生の監修のもと徹底的に行った。

 何なら、この活動を行う前に食中毒の基礎知識を学ぶため、小林先生から中学生にも理解しやすい衛生学について講義も受けた。普段の授業はちんぷんかんぷんなことも多いけれど、興味のある分野はいくら学んでも苦にならない。もっと知りたくなってしまうくらいだ。

 もちろん、食物アレルギーの注意も払うため、冷蔵庫と冷凍庫の扉、およびそれぞれ作ったものを小分けに入れたカップにも成分表を貼り付けておいた。


 これまで作ったものは、レモンの蜂蜜漬けに冷たくひんやり涼しさを感じられるババロア。ミカンやモモの缶詰を使ったお手軽ゼリーに、グレープフルーツの皮を器にした爽やかフレッシュまるごとゼリーまで。

 各部それぞれ差し入れ物を食べてよい曜日を設定し、後は食べたい人が自由に取りに来るスタイルにした。


 その差し入れのお礼だろか。クラスメイトの一人の男の子に、『花火の観覧チケットが余ったから』と地域の花火大会に誘われたのが、今日この日だった。

 私は兄たち以外の人との連絡先交換やSNSアプリの使用については厳しく制限をかけられているから、本当は内緒で教えるのはルール違反。でも、当日集合する時に連絡手段がないと不便ということで、電話番号だけつい教えてしまった。

 兄たちにも内緒の、秘密のお出かけ。しかも、有料観覧チケットを持っているとかなり近くで花火を堪能できると聞いていたから、私は凄く楽しみにしていた。

 でも、約束の時間からもう、二十分は過ぎてる。


 ――せっかくお兄ちゃんたちの目から逃れてうまく出てこれたのに。浴衣の着付け方も小林先生から教わって、今日は頑張って自分でやってみたのになぁ。はぁ……。

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