ホームルーム(前半):妹VSお兄ちゃんs'③
勝てない。
初めて、負けた。
将棋も、チェスも、オセロも。トランプなどのカードゲームすらも。
ありとあらゆるテーブルゲームやカードゲームに挑戦しても、何一つ勝てない。
そんなバカな……。
世間一般から見ていわゆる『飛び抜けた才能』を持っている俺たちが、たかが遊びの部類に入るものに太刀打ちできないなんて。
――あの綿菓子のように、ふわふわと甘く柔らかな表情を浮かべた『妹』に。
親父、父と称しているあの王番地長道の元に、養子として妹が迎い入れられたのは今から五年前。
その頃俺たち九人兄弟はすでに王番地家の屋敷を出ており、国内どころか世界中を飛び回っていたから、“実家”に新たな養子が来ていることにまったく気づかなかった。
……というか、興味もなかった。
そもそも、王番地長道が俺たち九人の兄弟を養子として引き取ったことが美談とされているようだが、実際は単なる飾り駒。
後は、後継者育成ってとこか。
王番地長道には実子がおらず、他の親族から後継を立てると思いきや、俺たち養子の中で一番秀でたものを跡継ぎとすると抜かしやがった。
そのくせ、子どもの世話を自らする気はさらさらなし。
なので、俺たち兄弟はこの王番地家に引き取られはしたが、すぐに英才教育や専門的な指導ができるアカデミーへ入れられたので、お互いのことをよく知らないまま十年以上が経過していた。
顔を合わせるのは、毎年一月行われる王番地家主催の新年会くらいなものだ。
兄弟といっても、紙ぺら一枚の希薄な関係。
互いのことなど興味関心はなく、たまに顔を合わせても特に会話をするわけでもない。
なんなら、全員がこの王番地家の跡目相続にもまったくの無頓着だ。
王番地家の親族どもは、それぞれお気に入りの兄弟を引き込み後継者争いに有利な立場を取りたがっているようだが、自分たちには関係ない。
王番地家に引き取られる前も、引き取られた後も、家族愛や無償の愛情というものにまったく触れる経験がなかったため、全員が非常に冷めた内面を抱えて過ごしてきたのだった。
――それが激変したのが、今から三年前。あの、世界中でパンデミックが起きた年だ。
仕事も公演も海外渡航も、どこにも行けない。たまたま全員が日本で過ごしていた時に、起こったあのとてつもない出来事。
外出禁止令が出てからは何をするにもままならず、毎日毎日各々が所有している別邸で悶々と過ごす日々。
そんな中、王番地家当主でもある王番地長道から、『紹介したい者がいるため、本邸へ来訪するように』という連絡が入った。
……めんどくせぇ。
おそらく、九人全員が最初に思ったことだろう。
普段はまったく連絡も寄越さないヤツからの呼び出しは、毎回と言っていいほど碌でも無い。
今回は、前から話題に上がっている『お見合い相手の候補者選定』の件だろうか。
兄弟の中でも最年長の俺と次に続く怜は、ここ最近、こういった話を嫌というほど聞かされている。
怜は新米弁護士として、こっちは研修医として激務に追われているので、余計なことを考える暇などありはしないのに。
だが、王番地の頂点で好き勝手に動いているヤツには、そんなことは関係なし。
パンデミックであろうとも、常に自分を中心に周りをはた迷惑に動かしているのだろう。
……本当に、くだらない。
王番地家に引き取ってもらったからと言って、そこに対する感謝の気持ちも慈愛の心も生まれてこない。
道は決められ、レールに敷かれ、初めて自分から『やってみたい』と思った夢でさえも、たった一言で打ち砕かれる。
『それは、王番地家のためにはならない。その考えは、今すぐに捨てろ』
捨てて、捨てられ。
そんな人生を繰り返してきた。
そんな俺に、誰かを愛し、愛される資格などあるはずもない。
久しぶりに、仕方なく、王番地家正面玄関に顔を揃えた九人。
「おう」
「どうも……」
「…………」
口数は少なく、挨拶すらも一言で終わる。
そんな“実家”のドアベルを鳴らすと、いつもの王番地家当主専属の秘書ではなく、見たこともない小さな三つ編みの女の子が、ちょこんと俺たちをお出迎えしてくれた。
『おかえりなさい、お兄ちゃん』
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