ホームルーム(前半)妹VSお兄ちゃんs'②
パタンッ。
あのハプニングだらけの大花火大会から戻り、私は全身疲れた体をベッドの上へ投げ出した。
まだ、心臓がドキドキする。
こんなこと、初めてだ。
クラスメイトから花火大会に誘われた時は比べ物にならないくらい、胸の中の鼓動が全身に響いている。
ど、どうしよう……。
お兄ちゃんたちと合流した後、私は買ってもらったりんご飴やたこ焼きを頬張りながら、日の沈んだ青と黒の景色に映える橙色のぼんぼりや屋台全体から照らされるお祭りの雰囲気を味わいながら花火会場まで歩いていた。
私の歩調にゆっくり合わせてくれるお兄ちゃんたち。
このお祭りの雰囲気にあてられたのだろうか。
私だけじゃなく、お兄ちゃんたちも普段よりテンションが上がっているのか、今日はことさらに甘々というか、糖度が高いような気がする。
……気のせい、かな?
そんなことを考えながら歩いていると、花火会場の目の前まで近づいてきた。ここまで来ると人の波はさらに大きくなり、前へ進むのも窮屈さを感じるようになる。
「――!? 危ないっ!」
私の体がその群衆に押し出されそうになる瞬間、右肩を力強く抱きしめられる。霧お兄ちゃんだ。
「ふぅ。倒れなくて良かった。光、大丈夫ですか?」
「う、うん……。ありがとう、霧お兄ちゃん。お兄ちゃんこそ、怪我してない? 大丈夫?」
「平気ですよ。大事な光に怪我がなくて良かった」
普段は華奢なタイプに見えるのに、私の危険が迫っている時はその全身を通して守ってくれる。その姿を間近で見ると、ドキドキが止まらなくなる。
すると、私の右側から急に柔らかな声が降ってきて、右手を引っ張られる。
「危なかったですね。光、ここから先は僕から離れないでくださいね」
いつもの聞き慣れた声。紫お兄ちゃんだ。
紫お兄ちゃんも、絵画制作に没頭することが多いからあまり運動するようには見えないのだが、このように手を握られると力強さを感じてしまう。
そして、握られた手は急に指と指を絡めてくる恋人つなぎへと変化していった。
「これだと、離れない。ずっと一緒、ですね」
ちょ、ちょっと、これは……。
思わず指先から熱が帯びてくるのを感じていると、耳元で奥深く語りかけるような言葉が聞こえてきた。
「光、オレからも離れないで」
その声は、空お兄ちゃんだ。
普段は語尾にハートマークをつけるくらい明るく高めの声なのに、こういう時だけ深く、重低音を響かせる声でささやいてくる。
常に音との触れ合いを生業としてきた空お兄ちゃんだからか、その声の破壊力はバツグンだ。
しかも、普段は使わない呼び捨てで。
「ねっ、光……」
「ちょ、ちょっと待ってっ! 耳が持たない……」
「こら、光。前を向いて歩きなさい」
左頭上から聞こえてきたのは、いつもの渋い声。夕お兄ちゃんだ。
いつも迷いの多い私を、常に正しい方向へ導いてくる夕お兄ちゃん。今日も普段のように渋い顔をしているかと思いきや、表情はだいぶ緩んでいるように見える。
「光、今日は、その、一段と……輝いてみえるな」
凄く優しい笑顔を見せてくれるその姿に、私の心臓はさらに飛び上がった。
激レアだ。普段では、絶対にお目にかかれない超激レア映像だ。
私の頭がパニックになっていると、後ろからポンっと優しい手が触れてきた。怜お兄ちゃんだ。
いつもは眼鏡姿の怜お兄ちゃんが、今日はかけていない。コンタクトなのだろうか。
そう言えば、私と一緒に家で過ごしていたり、私と出かけたりする時は、たいてい眼鏡はかけていない気がする。
「怜お兄ちゃん、今日は眼鏡忘れてきたの? それとも、コンタクト?」
「ん? ……ああ。今日はプライベートだからな」
そう言うと、怜お兄ちゃんは私の目をじっと見つめながら、こう呟いた。
「……光といると、気が緩むんだよ。眼鏡は、オンオフの切り替え道具というところかな」
ふぇっ?
じゃ、じゃあ、私の前でだけオフの姿を見せてくれるってこと……?
私だけが知っている姿ってこと……?
夕お兄ちゃんの言葉にすでにパニック状態だった私の頭は、怜お兄ちゃんのさらなる言葉の重ね着に、すでにキャパオーバーとなっていた。
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