第22話 二度目の魔具屋

「いらっしゃいませ~」


ああ、よかった。前回きたときとは別の店員だ。


「ふぅ……」


「あら?」


棚の影から、見覚えがある薄紫色のショートヘアの女性が現れた。


「うふふ、お久しぶりですね。お元気でしたか?」


「ソウタさん、お知り合いですか? 魔具屋さんに通ってるなんて意外です!」


「いや……」


「前に一度だけ、でしたよね」


「へぇ! それだけでよく顔を覚えられますね」


「うふふ、ありがとうございます」


驚いた様子で褒めるミレイユと、それを受けてきれいに笑う店員。


話が膨らむ前に、自然な流れで商品を探すふりして立ち去ろう……としたそのとき。


「ところで、前回ソウタさんは何を買いにきたんですか?」


……恐れていた質問がきてしまった。


誤魔化したいところだが、見たところこの店員、かなり記憶力が良さそうだ。俺が買った本もきっと覚えているだろう。


この店員が俺に恥をかかせるために魔導書のことを言い出す危険性も考えた結果、傷を最小限に抑えるため俺は勇気を出して言った。


「中級メテオの魔導書をちょっと……」


「えっ! メテオですか!」


「おう……」


「……えっ、え、ちょっと待ってください! 中級ってことは、初級はマスターしてるってこと? っていうかソウタさん魔法が使えるんですか?」


ミレイユが顔を近づけて俺を質問攻めにしてきている。好奇心が強い人なのか、圧がすごい。


「それは、その……」


ここで魔法なんて一度もやったことがないと言ってしまえば、店員に変な奴の烙印を押されることは免れない。


どうする、俺……!


冷や汗が額にうっすらと滲みだしたとき、いつの間にか戻ってきていたリヴィを目が合った。なぜか彼女がすべてを見透かしたような表情をしているように見えた。


「これを頂けるかしら」


ああ、よかった……。リヴィが魔導書を持ってきたことで話がそれた!


「……そちらロゼルバの書ですが、お間違いございませんか?」


「ろっ……ロ、ロゼルバ? いやいや! そんな高価なものじゃなくて大丈夫ですから!」


「いいから」


リヴィが手にしている、くすんだ深緑色の本はよほど高いものらしい。ミレイユが頭と両手を激しく横に振って拒否している。


「そんなにすごい物なのか? まぁ、俺が聞いてもわからないと思うが」


「いいえ、この書の凄さは至って単純です。ロゼルバという、世界一の魔導士のために作られた魔導書の、こちらはその数少ない複製版です」


「なるほど……確かに単純に強そうだ」


「ち、ちなみにいくらするんですか?」


ミレイユが恐る恐るといった表情で店員に聞いた。


「三十五万ダレンです」


「リヴィエッタさん、それを棚に戻してください……。私が選びます……」


「これにするわ。もう決めたから」


「だって、三十五万ダレンですよ! 私が使っていたのなんて、二万ダレン以下で買った中古品です!」


ミレイユは二万ダレンの魔導書をずっと使っていたのか……。俺が転生時に買った十五万ダレンのショーテルと十万ダレンの魔導書のバカさ加減が時を経て浮き彫りになった。


「いいのよ。あなたは死神に恥をかかせるつもり?」


「で、でも……」


死神って、そんなに良い家柄なのか? 確かにリヴィは育ち良さそうだけど……。


「もしよかったら、この本を使ってソウタに経験値を積ませてあげて。毎回、私とだけダンジョンに潜っていても代わり映えしないでしょうから」


「リヴィさん……! ありがとうございますっ!」


ミレイユはおもむろにリヴィに抱き着いた。


あ……まずいぞ、これリヴィ怒るんじゃないか?


しかしながら俺の心配は杞憂に終わったようで、リヴィは目をパチクリさせながら困惑した様子でミレイユを抱き返した。


リヴィ、意外とああいうコミュニケーション大丈夫なタイプだったんだ……。ボス倒した後とか、俺もドサクサに紛れて抱き着いてみようかな。


想像したみたが、鎌で首をハネられるイメージが沸いてしまい、咄嗟に自分の首を両手でおさえた。

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