第17話 水のダンジョン

「でも、どうせならもっとマシなスキルが欲しかったな……」


「どんなスキルも使い方次第よ」


「だといいんだが」


街の外へ出ると、前回と同じようにジッパーの魔法で瞬間移動をした。目の前にあらわれたダンジョンの扉はねずみ色。リヴィによると、前回やった土色より少し上の難易度らしい。


「ダンジョンの難易度が高くなると、具体的にはどうなるんだ?」


「出現するモンスターが強くなるの。この世界には色々な種類のモンスターが存在しているのよ。なかには魔法攻撃でしか倒せないモンスターや、食べることで倒すモンスター、踊ることで倒すモンスターなんかもいるわ」


「食べることで倒すモンスター? なんだそれ……あと踊って倒すモンスターも意味がわからないな」


「勇者として仕事をしていれば、そのうちわかる日がくるわ。ただ、そういった特殊なモンスターは低難易度のダンジョンでは現れないから、今は安心して大丈夫」


「そうか……」


「ダンジョン、不安?」


俺の語気が弱まってきたのを感じ取ったのか、リヴィがいつもより柔らかめな声で聞いてきた。


「そりゃそうだよ。だって、命を落としてしまう危険だってあるわけだろ。それに前回よりも強力なモンスターが出てくるんじゃ、俺の攻撃は絶対に通用しない」


「そうかもしれないわね。でも大丈夫。あなたは私が守るから」


「お、おう」


そう言ってくれるのは素直に嬉しかった。この言葉にウソはないだろう。リヴィが倒せるレベルのモンスターが相手なら。しかし、予想外の強いモンスターが現れたらどうだろう。当然リヴィだって自分の命を優先して逃げるはずだ。俺が怖いのはそういった出来ごとなんだ。


だがこれもチートスキルを手に入れるためだ。できるだけリスクを管理しながら最善を尽くすしかない。


「それに腕輪もあるから安心して。ただし油断は禁物よ」


「ああ、わかった。いこう」


今回は俺がダンジョンの扉をあけた。覚悟を持って踏み入れた足が濡れた。床が水浸しになっていて、くるぶしほどまでが水に浸かった。


「今回は水系のダンジョンね」


そういったリヴィの足は濡れていなかった。彼女は水面すれすれを浮遊しながら移動できるらしい。その状態だと、ちょうど俺とリヴィの顔が同じ高さになった。


「こんなダンジョンもあるのか。てっきり全部のダンジョンが前回みたいな洞窟っぽい感じかと思ったよ。でも参ったな……地面がこれじゃ、前みたいに穴を掘って隠れてるっていうのができない。さっき教えてもらったスキルだって試してみたかったのに」


一度試しにやってみたが、穴掘りスキル自体は発動可能だった。しかし掘ったそばから水が流れ込んでくる。穴に隠れるという目的を果たせない以上、使用不可と同義だろう。


「あなたとこのダンジョンの相性は最悪ね。戻ったほうがいいかしら」


確かにダンジョンとの相性は悪いが、俺は一刻も早くチートスキルを取得したかった。それに、リヴィの気が変わって、いつ俺との冒険を辞めると言い出すかわからない。


「うーん、そうだなぁ……。でも、まだできないと決まったわけでもないし、いけるところまでやってみよう」


「わかったわ。そうしましょ」


このダンジョンのモンスターは尾びれがついていたり、固い甲羅で覆われていたり、水辺に生息していそうな見た目のモンスターが多かった。俺が地面に隠れられないため、リヴィは鎌を使った近接攻撃でモンスターの処理をしてくれたが、やはり時間はかかった。そして時間をかけるほど、俺がモンスターに襲われる危険性が増した。


「このやり方だと、ちょっと効率が悪いわね。あなたが主体となって戦ってもらうのが一番良いかもしれない」


「そんなことをいったって、俺のツルハシじゃあの硬そうなカニの殻は貫けないぞ」


「この前、決闘でやった連携を試してみましょ」


ザラミルの街でジョシュという金ぴか王族を相手に使用した、ツルハシを鎌に変える魔法のことか。


「確かに、あれならいけるかもしれないな」


「鎌と形状が少し似ているせいか、ツルハシはあの魔法をスムーズに受け入れられるみたいなの」


「まぁ、言われてみれば……」


ツルハシと鎌の形状が似ていることには気が付かなかったが、確かに似ているかもしれない。


「正直、あんなにうまくいくとは思っていなかったわ」


振るだけで魔法の波動が出る鎌があるのであれば、俺でもモンスターを倒せる。ついにモンスターを自分で狩る日がやってきたのか! これなら、たぶん経験値を多くもらえるから、チートスキル取得に近づくことができるぞ!


「でもひとつ、伝えていなかったこの魔法の弱点があるの」


「弱点?」


心臓がドキリとした。


「そう。弱点といっても、あなたがその弱点を負うわけじゃない。負うのは私。発動中は一時的に視力を失うの」


「視力を……え?」


驚愕の事実を聞いて、俺は固まってしまった。失明した状態で、知り合ったばかりの他者に身を委ねるという信じがたい行為に衝撃を受けたのだ。


「そんなに心配しなくても大丈夫。ここのモンスター程度であれば、攻撃を受けても大したダメージにはならないわ」


「で、でも……」


「それに、あなたが守ってくれるでしょう? この前の決闘のときみたいに」


リヴィがいうこの前とは、ジョシュが放った青い火球がリヴィのほうへ飛んでいったとき、鎌で防いだときのことだろう。


「あれは結局、結界が守ってくれていたから必要なかったじゃないか」


「でもあなたは、あの極限状態で私の身を案じてくれた。それだけで十分よ」


リヴィはそうやってうろたえる俺に優しく語りかけた。


この人、いったい何を考えているんだ……? 目の見えない状態でダンジョンにいる?


いくらモンスターからのダメージが少ないとはいえ、あまりに危険すぎる行為だろう。


俺には彼女がどうして、そんなバカげたマネができるのかわからなかった。


だがダンジョン攻略に関してはリヴィのほうがプロだ。合点がいかなかったとしても、ここは彼女の意見に従うのが良いのだろう。


「……わかった。試しにやってみよう。ただ正直、俺にはちょっと荷が重い。様子を見てうまくいきそうになかったら、元のやり方にもどそう」


「ええ、そうしましょ。きっとうまくいくわ」

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