第13話 成行きの決闘
ダンジョンの外へ出ると、リヴィエッタが登場したときに使っていたジッパーの魔法を発動した。
ジッパーは自動的に下がり、何もない空間に穴をあけた。
「入って」
「う……痛みはないですよね?」
「大丈夫よ。安心して」
あいたジッパーからのぞく紫色をした空間に恐る恐る足を踏み入れた。中は暗くてよく見えなかったが、続いて入ってきたリヴィエッタがジッパーを閉めると何も見えなくなった。
「これ、今どうなってるんですか?」
俺が聞き終わるが早いか、ジッパーがふたたびおろされた。すると、目の前には見たことのない大きな街が広がっていた。
「さあ、どうぞ」
リヴィエッタに促され、ジッパーをまたいで外へ出た。
「すごい! ポータル無しでも好きなところへいけるんだ」
「時空間魔法よ。さ、こっちへ」
大きな門を通って街へ入ると、夜にも関わらず人の多さが目立った。俺が住んでいるカウラでは夜中に出歩く人など滅多にいないから、何となく元いた世界のことを思い出して懐かしい感じがした。
「ここは何ていう街なんですか?」
「ザラミルという港町よ。大きな街だから、夜遅くにもやっているお店が多いの」
リヴィエッタは店に目星をつけているらしく、迷うことなくおいしそうな店を何軒も通り過ぎた。
大きな噴水広場を通り過ぎたときだった。
「ああいう奴隷みたいなやつのほうが気が楽でいいかもな」
声のしたほうを見てみると、飾りが豪華で高価そうな格好をした三人組の男と目が合ってしまい、俺はすぐに逸らした。
奴らが俺のことを奴隷呼ばわりしていたのは明らかだ。
こういうことがあるから、夜中に出歩いたりするのはイヤなんだ……。無視して通り過ぎよう。
「あれ? ちょっと待って、あの子かわいくね?」
三人組のひとり、翡翠色の長髪をポニーテールのように束ねた褐色の男が近づいてきた。ざっくり開いたシャツの胸元からいくつものアクセサリーが覗いていて、とてもチャラい印象を受けた。
最悪だ……。
「お姉さん、すっごいかわいいね! 髪もツヤツヤだし、なんかお人形さんみたい」
リヴィエッタは男の誉め言葉に目もくれず、ただ前だけを見て歩き続けた。
「ねぇねぇ、俺たちこう見えてもチョー偉いんだよ~。よかったら一緒に遊ばない? 絶対に損はさせないからさっ」
「そうですよ。こんな汚い労働者階級の男といるよりも、ずっと面白い時間が過ごせることを約束します」
気が付いたら、俺を奴隷呼ばわりした赤髪の男も近づいていた。ポニーテール男と似たような服装をしているが、それほど着崩してはいないし言葉遣いも丁寧なので、この男のほうがいくらか話が通じるかもしれない。
「すみませんけど……」
そう言って通り過ぎたようとしたところ、赤髪男に肩を思い切り押された。
「底辺は黙ってろよ」
あっ、全然通じないわ。
汚物を見るような灰色の瞳が俺に向けられた。
おとなしく帰っておけばよかった……。結局は、こういう力を持った人間が好き勝手にやっている世界じゃないか。俺みたいに戦闘能力のない人間は、肩身せまく生きていくしかないんだ。
「俺は貴様のような、何の責務も持たず、ただのうのうと暮らしているだけのクズが心底嫌いなんだ」
「ジョシュ、その辺にしておこうよ。気が立つのもわかるけど、事が大きくなるのはまずい」
今まで黙っていた金髪おかっぱ男が口を挟んできた。この男もほかの二人と似たような服装をしているが、シャツのボタンをすべて留めていることや声のトーンから、なんとなく計算高い人物であるような印象を受けた。
「何がまずいんだ?」
ジョシュと呼ばれた赤髪男の眼光に一瞬ひるんだ様子を見せた金髪おかっぱ男。
「彼らにも訴える権利はある。あんまり事が大きくなってしまうと、僕らの立場上よくないと思うんだ」
「王族と庶民が対等であるわけがないだろう。上流階級の俺に対して、下流階級のコイツが持つ権利などない」
そういうと、男は剣を抜いた。
「失せろ。目障りだ」
俺は生まれて初めて剣を向けられ、完全にひるんでしまった。そんな俺を見て、リヴィエッタが口を挟んできた。
「そこまでいうのであれば、こうしましょう。決闘をして彼に勝てば、今夜お付き合いするわ」
少し間をあけて、ジョシュが聞き返した。
「すみません。私がこの男と、何をすればとおっしゃいました?」
「決闘よ。上流階級の方は実戦を好まないのかしら」
「はっはっは。いえ、まさか。労働者階級の者と決闘をしろなんて、有り得ないことですから、聞き間違いかと思いました。もちろん私は受けて立ちますよ」
もちろん俺は抗議のまなざしをリヴィエッタに向けたが、彼女は薄く笑うだけだった。
おいおい、大丈夫なのか……。リヴィエッタは一体なんのつもりなんだ。
俺は抗議する勇気すら出せず、歩き出した三人組に震える足で付いていくことしかできなかった。
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