第8話 贖罪

「何があった?」


「……えっと……その……」


面接にも使用したプレハブで、ランドウの鋭い視線が刺さる。


なんて説明すればいいのだろうか。バカっぽい三人が信用できませんでした? 今にも天に召されそうな爺さんに気を取られました? 


そんなの通用するわけない。


「……お前を採用するとき俺が言った言葉、覚えているか?」


「……」


「この仕事はひとりじゃできない。お互いの信頼が大切なんだ」


「……はい」


ランドウの言う信頼の大切さも、頭では理解できている。


他者を信じられなくなったのはいつからだろう。信じていた人から裏切られたとか、そういった経験をした覚えはない。しかし、日々を生きていくなかで遭遇する不条理、目にする暗いニュースや、街中で見かける人間の影響で、しぜんと他人との距離を取るようになってしまったのかもしれない。


「俺はお前を買っている。それは、お前が穴掘りスキルを持っているからじゃない。誰よりもマジメに、小言ひとつ言わずに頑張っている姿勢が好きなんだ」


「……」


「俺は回りくどい言い方が嫌いだからよ、ずばり聞かせてもらうが、お前は俺たちチームを信頼することができないか?」


「いや、そんなことは……」


「そうか。ならお前のその言葉、俺はもう一度だけ信じる。だが、お前が変わったと俺が判断するまでは重要な仕事は任せられない。雑用を担当してもらうことになるだろう」


「……わかりました」


「あと今回の件についてだが、まったくのお咎め無しというわけにはいかない。たまたまケガ人は出なかったが、危うく大勢の仲間の命を失うところだったんだ。お前も感じていると思うが、もうあいつらもお前のことを信用していない」


そこに座っているのは、俺の知っている、明るい陽気なランドウではなかった。声こそ荒げてはいないが、目の奥に静かな炎がめらめらと揺らいでいる。


「なにか……償いをさせてほしいです。その、雑用とか、減給とか、ほかの皆さんに示しがつくのであれば、何でも。俺にできることがあれば、何でも言ってください」


俺の申し出を予想していなかったのか、一瞬驚いたような顔を見せたランドウだったが、腕組みをするとうつむいて考え始めた。


そして、少し間をおいてから意を決したように顔を上げた。


「じつは、お前に頼みたいことがあったんだ」


「なんでもいってください!」


ランドウが提示した仕事内容は普段とは違っていた。普段は災害などによって崩落した瓦礫を片付けたり、トンネルを掘ったりしているが、今回提示された仕事は塞がれたダンジョンへの入り口を掘ることだった。


「……ダンジョンの入り口を掘る? どういうことですか?」


「ダンジョンは発見した者に攻略の権利が与えられるが、その発見者が攻略を失敗した腹いせにダンジョンの入り口を強固な岩で塞いだらしい。魔法でぶっ壊すとダンジョンの入り口ごと破壊してしまうかもしれねぇから、お前の穴掘りスキルが適任なんだ」


「そんなことをする奴がいるんですか」


「俺もこんな事件は初めて聞いたけどな」


「でも、なんでもっと早く俺に任せてくれなかったんですか?」


「夜中の作業になるから、お前はきっと嫌がるだろうと思って言わなかったんだ」


夜中に出歩かないことをランドウに言った覚えはなかったが、見通されていたらしい。


「時間指定があるんですね」


「ああ。作業時間の指定だけじゃなく、作業員はひとりだけ寄こせだとか、色々と細かい注文が多いから、一度は断ったんだ。だが相手もかなり頑固でな。俺が断るたびに報酬をつり上げてきたから、いったん保留ということにしてもらっている」


「なるほど。もし俺がその件を受ければ、ほかのみんなに特別手当を出せるし、俺の償いも態度で示せるってことですね」


「……どうだ?」


長年の考え方をすぐに変えることは難しい。今だって、ランドウが俺を邪魔者扱いし、あわよくばモンスターの餌食になればいいと思っているのではないか、そんなふうにも捉えてしまっている自分がいる。もしかしたら、それをするためにわざと今日の宙づりの作業をさせたのかも……。


これ以上の考えは強制的にシャットアウトした。心が闇に飲み込まれそうになったからだ。


ひとには取るに足らない決意であろうが、俺は勇気を出して言った。


「わかりました。やらせてください」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る