第37話 パン
「うん、おいしい」
「おいしいにゃ」
私と小丸は、美麗さんのお店に来ていた。私は採れたて野菜の野菜ジュース、小丸は搾りたてミルクを飲んでいた。やっぱり、今日も美麗さんのお店の採れたて野菜の野菜ジュースはおいしかった。近くの牧場から毎朝配達されてくるという、搾りたてミルクに、小丸も満足そうだった。
「やっぱり、田舎暮らしって厳しいですね」
私は昨日聞いた獏さんの苦闘を美麗さんに語っていた。
「美麗さんはすごいですね。カフェなんて。大繁盛だし」
今日もお店は、集落の人でいっぱいだった。
「私は運がよかったのよ。やっぱり、田舎暮らししたくて色々やって失敗した人たちは私もたくさん知っているわ」
「そうなんですか」
「うん」
「そうかぁ・・、田舎って意外と厳しいんだなぁ」
なんだか、のほほんと田舎に馴染んでしまっている自分が申し訳なかった。
「ていうかなんかいい匂いですね」
なんかものすごく甘い、いい香りが店内に漂っている。
「うん、今シナモンロール焼いているの」
「へぇ~」
「食べてみる?」
「はい、ぜひ」
私は即答した。
「はい、焼きたてよ」
「わあ」
目の前に、白いお皿に乗った焼きたてのシナモンロールが置かれた。
「ん~、いい香りぃ」
すごく、甘いいい香りだった。この香りだけでなんか幸せになれる。
「ほふほふ」
私は焼きたてのシナモンロールをちぎって口に入れる。
「おいしい」
焼きたてのシナモンロールは、甘くて香ばしくて堪らなくおいしかった。
「滅茶苦茶おいしいですね」
「うん、初めてのわりにうまくいったわ」
同じように焼きたて熱々のシナモンロールを頬張りながら、美麗さんが言う。
「初めてだったんですか」
「うん」
「天才ですね。美麗さん」
私は驚く。
「ふふふっ、ありがとう」
美麗さんがうれしそうに微笑む。
「ほんとおいしいですよこれ」
私はシナモンロールを口に入れながら、しきりに感心する。本当においしかった。
「じゃあ、ななちゃんの太古版もいただいたことだし、これお店のメニューにくわえようかしら」
「絶対ヒットメニューになりますよ」
私は断言した。
「あっ、そうだ」
美麗さんが、そこで、突然何かを思いついたように言った。
「えっ、なんです?」
私は驚く。シナモンロールを危うく喉に詰まらせそうになった。
「もう一人いるわよ。移住者。この村に」
美麗さんが言った。
「えっそうなんですか」
「うん」
「どんな人なんですか」
「それはねぇ、ちょっと変わった人なんだけど・・」
美麗さんは顎に人差し指の甲をつけながら語り始めた。
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