第31話 犬道
「ん?」
「にゃ?」
今日はちょっといつもと違う山側の道を小丸と共に散歩していた。すると、何匹もの犬が道のど真ん中でくつろいだ状態で寝転がっている。そのくつろぎっぷりと言ったら、まるで我が家で、完全に安心しきってリラックスしているそれだった。
「・・・」
そのあまりに無防備なくつろぎっぷりに、犬を怖がる小丸も何の反応もしない。
「すごいな・・」
ここまで道路の真ん中でくつろげることに私は驚く。犬たちは心の底から安心しきっているのだろう。私たちの存在に警戒感すらがない。
しかも、そこをたまに通る集落の人の運転する車の方が、その犬たちをよけていく。犬たちは立ち上がろうとすらしない。住民の人たちも全然気にしている風もない。
「・・・」
犬もすごいし、ここに住む人もすごかった。
「あっ」
犬たちのいる道を通り過ぎ、畑の広がる場所に出た時だった。ふと、道端の畑の方を見ると、その畑の中に獏さんがいた。畑で何やら作業をしている。
「やあ」
獏さんも私に気づいた。
「ここ、獏さんの畑なの?」
「うん、借りたんだよ」
「へぇ~、そうなんだ」
何やらすでに、野菜がちらほらできている。獏さんの畑は全体を見回すとけっこう広い。
「畑も貸してもらって野菜はできるし、今日の朝も漁に出て魚も獲ったし、自給自足は出来そうだよ。家賃もタダだし」
僕さんが薄っすらと汗をかいた額の下からうれしそうな顔を覗かせながら言った。
「へぇ~」
獏さんは自分の理想と夢に向かって確実に進んでいるらしい。
「あとはお米だけ。でも、田圃はなかなか貸してくれるところが見つからなくてね」
「そうなんだ。空いてないの?」
「いや、いっぱい空いているよ。この辺は耕作放棄地ばかりだからね。でも、田んぼは水で繋がっているから、畑みたいにはいかなくてね。なかなか信用のない人間は貸してもらえないんだ」
「そうか。シビアな面もあるんですね」
「うん、結局、僕たちはなんだかんだ言ってよそ者だからね」
「そうか・・」
やはり、そこは線を引かれてしまうのか・・。仕方ないとはいえ、なんだかちょっと悲しかった。
「ななちゃんは仕事はどうするの?」
獏さんが訊いた。
「私はしばらくユーチューブでなんとか生きていこうかと・・」
小丸との日々が当たり、とりあえずの生活は大丈夫な額のお金は入って来ていた。
「へぇ~、ユーチューバーか。カッコいいな」
「小丸のおかげです」
私は足元の小丸を見る。
「にゃにゃにゃ」
小丸が、無邪気な顔でそんな私を見返す。小丸はやはり自分の存在の特殊性にまだ気づいていない。
「そうか、確かに二本足で立つ猫ってそりゃウケるよね」
獏さんも小丸を見て笑った。
「にゃにゃにゃ」
小丸はその丸い顔をかしげていた。
「獏さんは?」
「僕は農業をやろうと思っているんだ」
「へぇ~、農業かぁ」
「自然農でやっていこうと思っているんだ」
「自然農?」
「うん」
「自然のままに育てた栽培方法だよ」
「そんなのがあるんだ」
「うん、農薬も肥料も使わない。それだけじゃなくて、耕すことすらもしないんだ」
「へぇ~、それで育つんですか」
「うん、自然の力でね」
「へぇ~、すごい」
「近くの集落にグリーンファームっていう、直売所ができたからそこで販売もできるんだ」
「へぇ~」
植物好きの獏さんには、農業はとても合っている気がした。
「あっ、そうだ」
「何?」
私は思い出した。
「なんかここ来る途中、道路のど真ん中で滅茶苦茶リラックスしきった犬たちを見たんですけど・・」
「ああ、あの犬たちね」
「なんなんですか」
「あれは野良犬だよ」
「えっ、飼い犬じゃないんですか」
私は驚く。
「うん」
「・・・」
この時代に野良犬が許容されている時点ですごいが、野良犬があそこまでリラックスできるって、どんな村なんだ・・。
「すごいよねこの村」
獏さんも笑っていた。
「はい・・」
私はあらためてこの村のすごさを知った・・。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。