第29話 海辺
「ごめんよ」
獏さんがあやまる。
「絶対に許しませんよ。どんだけ悲しい思いをしたと思っているんですか」
私はまだむくれていた。
「だから、あやまっているじゃないか」
「私が悲しみのあまり自殺とかしたらどうしたんですか」
「まあ、そう怒らないで。ねっ」
海辺では、私の歓迎会のために、集落の人たち総出のバーベキュー大会が行われていた。この日の朝、この港で獲れたばかりの魚介類に加え、お肉、これまた採れたての野菜が並ぶ。
「どんどん食べなっせ」
はなさんたちは、怒る私などまったく頓着せず、せっせと焼けたお肉や魚を私のお皿に乗せてくれる。だが、私はまだ怒っていた。
「ほんとに悲しかったんだら」
「にゃにゃにゃ」
小丸は現金なもので、もう、魚に買収され私の隣りで、上機嫌で魚をおいしそうに食べている。
「あんた、私の味方じゃなかったの」
「猫は嫌なことはすぐ忘れるにゃ」
小丸はおいしそうに魚を頭からかじる。
「都合がいいのね」
私はさらにむくれる。私の悲しみを分かっているのは小丸だけだったのに。
「ほれ、むくれとらんで、食べなっせ。おいしいぞな」
そう言って、はなさんはさらに私のお皿に焼けた肉をのせる。
「・・・」
私ははなさんののせてくれたその肉を見つめた。それはあまりにおいしそうだった。
「うん、うまい」
やはり、お肉はうまかった。
「どんどん食べなっせ。あんたのためにみんな準備しただで」
はなさんが、私のお皿にどんどん焼けたお肉をのせてくれる。
「はい」
結局、私もみんなの天然のやさしさに、許してしまうのだった。
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