第28話 暗闇

「ななちゃん、ちょっと」

 三日後、ついに、私ははなさんに呼ばれた。表情は険しい。

「・・・」

 ついに退去勧告か・・。私は小丸を抱き、はなさんの後について、はなさんの家に向かった。

「・・・」

 はなさんは終始無言だった。あれだけおしゃべり好きだったはなさんが一言もしゃべらない。私はそのことにさらに落ち込む。

「あれっ?」

 はなさんはなぜか、自分の家を通り過ぎ、海辺の方へと歩いていく。私はなんか変だなと思いながら、だが、そのまま、はなさんのその丸まった背中の後ろに従った。

 ついに海辺に出てしまった。辺りは真っ暗である。完全な暗闇だった。そして、波の音以外、恐ろしほどに静まり返っている。

 私は隣りのはなさんを見る。しかし、はなさんは何も言わず黙っている。

「あの・・」

 私は堪らずはなさんに声をかけた。

 その時、突然ライトが光った。

「わっ」「にゃっ」

 パンッ、パンッ

 そして、何が起こったのか分からないまま、何かが大きくはじける音がした。

「・・・」

 それは、パーティークラッカーのはじける音だった。私と小丸の頭や肩に、パーティークラッカーの紙吹雪や紙テープが舞い降りるようにゆっくりと降って来た。

「・・・」

 私と小丸は、まだ何が起こったの分からないまま、呆然としていた。ふと見ると、海辺の広場は明るくライトアップされ、そこには村人たちが総出で勢ぞろいしていた。

「サプラ~イズぅ~」

 そして、みんなが一斉に叫んだ。

「・・・」

 私は、しかし、目の前で何が起こっているのか理解できず、今だ呆然としていた。

「えええっ」

 そして、時間差で私は驚く。

「お祝いだよ」

 隣りのはなさんが言った。

「なんの?」

「あんたがこの村に来た」

「ええええっ」

 私は二度驚く。そんなことで村総出で祝ってくれるの?というか・・。

「サプライズじゃ」

 はなさんが得意げに言った。

「そんなハイカラなことをするんですね」

 私は驚き過ぎて、また頭が混乱する。

「ユーチューブで見たんじゃ」

 漁師の松田のおじいさんが言った。もう齢八十も半ばになっている。

「松田さん、ユーチューブとか見るんですか?」

 私はさらに驚く。

「ああ、うんだ。みんなで見て研究しただ」

「・・・」

 みんな年は取っているが、意外と先端をいっている漁村の人たちだった。

「じゃあ、みんながなんか冷たかったのは・・」

 私は隣りのはなさんを見る。

「それは・・」

「それは?」

「演出だ」

 はなさんがさらりと言った。

「演出・・」

「ごめんよ。驚かすには、前振りが大事だってユーチューブで言っていたんだよ」

 そこに獏さんが現れ、申し訳なさそうに言った。

「・・・」

「ごめんな、ななちゃん、小丸ちゃん」

 吉雄さんもやって来て、笑顔で小丸の頭を撫でながらあやまった。

「みんなが驚かそう言うてな」

「・・・」

「みんなが、なるべく冷たくしてくれ言うてな。わしは嫌じゃったんじゃが」

 吉雄さんの隣りから梅さんが言った。

「・・・」

「どうしただ?」

 はなさんが、黙っている私の顔を覗き込む。

「うううっ」

 私の目から涙が滲み出てきた。

「どうしただ?ななちゃん」

 みんなが驚いて私の顔を覗き込む。

「うわ~ん」

 そして、私はとうとう泣き出した。驚きと安堵で頭の中がごっちゃになっていた。

「うわ~ん、みんなに嫌われたと思ったぁ。うわ~ん」

 私はみんなの前で子どもみたいに泣いた。

「はははっ、ほうかほうか、それは悪いことしたなぁ」

 はなさんが申し訳なさそうに、泣いている私を抱きしめる。

「うわ~ん、わ~ん」

「はははっ、悪かった。悪かった」

 村の人たちもみんな私の下に来て、私に寄り添いあやまる。

「うわ~ん」

 だが、私はそのまま思いっきり泣き続けた。

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