第27話 最近

 不思議なもので、虫なども最初は怖くてしょうがなかったが、慣れてくると、それほど怖くもなくなってくる。あれほど苦手だったヤモリはかわいいとさえ思えて来た。そんな自分の変化に驚く。

「わあっ」

 また、ものすごい数の蟻が、棚に置いていたはるさんからもらったぼた餅にたかっていた。油断すると蟻がすぐ食べ物にたかってしまう。色々と家の隙間を埋めてはみるのだが、どこの隙間から入って来るのか、まったく効果はなかった。小丸も小さく数の多い蟻にはどうしようもなく、何もできなかった。

「意外と蟻が一番厄介かも・・」

 意外な伏敵だった。


「・・・」

 なんだか最近、村の人たちが冷たい気がする。私が何かしたのだろうか・・。最初は気のせいかとも思ったが、やはり、いつもやさしかったはなさんやその友だちの梅さんもなんだか明らかに私を避けるように冷たい。他の村民の人たちもなんか急によそよそしくなった。

「もしかして、これが噂に聞く村八分・・」

 何かのテレビで見たことがある。田舎に移住したけどそこの狭い濃い人間関係に悩み、結局その村を離れることになったという話。

「・・・」

 やっぱり、田舎移住はやさしくないのか。私の胸にまたあのドロッとした暗い鬱々とした絶望の影がちらついた。

 でも、獏さんがいる。獏さんはこの村の人じゃなく、同じ移住者だ。

「あっ、獏さん」

 私は、ちょうど海岸沿いの小道で、小太郎を散歩させている獏さんを見つけ、手を振った。私は獏さんと話がしたかった。

「あれっ」

 が、獏さんもなんだかよそよそしい。そして、明らかに私と目が合ったのに、私に気づかなかった振りをして、そのままどこかへ行ってしまった。

「・・・」

 私はその場に一人ポツンと右手を上げたまま残されてしまった。

「きっと私がなんかしちゃったんだ」

 家に帰って、私は一人落ち込んだ。小丸が心配そうにそんな私に寄り添い見上げる。

「嫌われちゃった・・」

 小丸を見て、私は笑う。でも、その笑顔は暗く引きつっていた。

「にゃ~」

 小丸はそんな落ち込む私を励ますように、私の腕をその小さな体で抱きしめた。

「そうだよなぁ~、そんな甘くないよな。世の中・・」

 そうだ。学校でも会社でも今までまともな人間関係を築けたためしのない人間が、ちょっと田舎に引っ越したからって、すべてがうまくいくわけがないのだ。いや、むしろ田舎の濃い、複雑な関係性の方が難しい。

「でも、せっかく・・」

 せっかく、なんだか人生上向いてきたと思ったのに・・。やっとなんだか、自分の居場所を見つけたような気がしていたのに・・。いい人たちに出会えたと思っていたのに・・。

「・・・」

 この家も、タダで借りている。そのうち追い出されるに違いない。

「短かったな・・」

 私は家の中を見回した。古く味のある室内。私はこの雰囲気をとても気に入っていた。

「にゃにゃにゃ?」

 そして、私は小丸を持ち上げ、胸の中でぬいぐるみみたいに抱きしめた。涙がその子丸の頭にポロポロと落ちた。

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