第26話 苦手

「どうしたんですか」

 獏さんは縁側の向こうの庭にいる小太郎を見つめていた。

「いや、もしかしたら、小太郎もそのうちしゃべり出すのかなって」

「いや、それは・・」

 ないとは言えないが・・。私は足元の小丸を見る。

「ここはいいとこだよ」

「えっ」

 ふいに獏さんがまた口を開き、私は慌てて顔を上げる。獏さんは庭を見つめていた。

「みんなやさしいし、僕を必要としてくれる」

「・・・」

 そう、必要としてくれる。私もそれを感じていた。私という存在を必要としてくれる。そして、それが何よりもここに移住してうれしいことだった。

「はい」

 私は気持ちよく同意した。


「じゃあ、お邪魔しました」

「ああ、またね」

 玄関先まで見送りに来てくれた獏さんが右手を上げる。

「はい」

 私と小丸は獏さんの家を後にした。

「よかったわ」

「にゃ?」

 帰り道、並んで歩いている小丸が私を見上げる。

「いい人で、獏さん」

「うんにゃ。ミルクおいしかったにゃ」

「うん、コーヒーもおいしかった」

 本当においしかった。獏さんと、これから仲よくやっていけそうだった。

「小丸も小太郎と仲よくしたらいいのに。友だちになりたがっていたよ」

 私が体を横に傾ぐようにして小丸を見下ろす。

「にゃにゃにゃ」

 すると、小丸は困った顔をして、その顔をしきりに前足で撫でる仕草をする。

「苦手だにゃ」

「小太郎が?それとも犬が?」

「両方だにゃ」

「そうなんだ。怖いの?」

「怖いにゃ」

「猫は犬が苦手なんだね」

「そうだにゃ。猫は犬が苦手だにゃ」

「でも、いい子そうだったよ」

「う~ん、にゃにゃにゃ」

 小丸はまた困ったように顔を前足でしきりに撫でる。これが困ったの時の小丸の仕草らしい。それは何ともかわいかった。

「ふふふっ、まあ、時間をかけて仲よくなったらいいわ」

「う~ん、にゃにゃにゃ」

 小丸は、またしきりに顔を撫でた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る