第25話 印象

「僕はここで自給自足を目指しているんだ」

 獏さんがコーヒーを飲みながら言った。

「へぇ~」

「お米も野菜も自分で作って、魚も自分で獲って、そういう生活をしたいんだ」

 そう語る獏さんの目は輝いていた。

「漁も今、村の人たちに教えてもらっているんだ」

「そうだったんですか」

「うん」

 獏さんはなんだかうれしそうだった。明るい未来に希望を感じているのだろう。それがすごく伝わって来た。

「もう働くのはこりごりだよ」

 獏さんが言った。

「多少、貧乏でも、のんびり生きたいんだ。あんな生活はもう嫌だよ」

「・・・」

「あの生活には絶対に戻りたくない」

「私も」

 私もこりごりだった。

「えっ」

 獏さんが私を見る。

「私も、鬱で」

「えっ、そうなの」

 獏さんが驚く。

「はい、パワハラ、セクハラ、カスハラのオンパレードで・・、おまけに毒親、ワーキングプア、貧困、社会的孤立、現代社会の社会問題の縮図をすべて体現しているという・・」

「そうだったのか・・」

「はい・・」

「君も苦労していたんだね」

「はい・・、というか苦労しかしていない気がします・・」

「そうだったのか。僕はまた今どきのかなり呑気な若者なのかと思っていたよ」

「えっ」

 意外な獏さんの私の印象に、私は驚く。

「そんな印象だったんですか」

「うん、人は分からないものだね。はははっ」

 獏さんは笑った。

「う~ん」

 私はうなる。なんかその呑気な、という印象に私は納得いかなかった。

「まあまあ、人の印象なんてそんなもんだよ」

 獏さんがフォローする。

「う~ん」

 しかし、なんか納得いかなかった。私はうなり続ける。そんな私の隣りで、座布団の上にちょこんと座った小丸が、呑気にミルクを飲んでいる。

「う~ん、心外だなぁ・・」

 私はまだぶちぶち言っていた。

「まあまあ、コーヒーもう一杯どうだい」

「あ、はい、お願いします」

 私はカップを差し出した。

 そして、その後、私たちはしばし、お互いの鬱トークで盛り上がった。色々と経験しとくもんだ。何がどこで幸いするかなんて分からない。鬱トークが以外に盛り上がり、私は思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る