第24話 フェア

「コーヒーでいいかい、それともお茶?」

「あっ、コーヒーでいいです」

 獏さんは台所へと消えた。

「お待ちどう」

 そして、しばらくして、かわいい大きめのコーヒーカップに、コーヒーを入れて獏さんは持ってきてくれた。

「はい」

「ありがとうございます」

「君にはこれだ」

 小丸には牛乳の入った小さめのカップを渡す。

「ありがとにゃ」

 小丸は前足を伸ばす。

「手で持てるのかい?」

「うんにゃ」

 小丸は、両方の手で、正確には前足でカップを挟み込むように持つ。

「器用だな。君は、はははっ」

「にゃ」

 本当に器用な猫だった。

「あっ、おいしい」

 獏さんの入れてくれたコーヒーはとてもおいしかった。

「香りが」

「うん、自分で炭火で炒った豆から挽いているからね」

「へぇ~、すごい」

「豆もこだわっているんだ。ちょっと高いけど、無農薬で、フェアトレードしたコーヒー豆なんだ」

「フェアトレード?」

「お互いの利益を尊重した取り引きってことだよ。自分だけが得をするんじゃなくて、相手の、生産者の利益を考えて取り引きをするんだ。普通、貿易って自分たちの利益をいかに最大化するかってことだけを考えてするだろ」

「はい」

「だから、現場の生産者のような弱い立場の人はどうしても隷属的な搾取をされてしまうんだ。それをしないフェアな取り引きなんだよ。そういったコーヒー豆を選んで買っているんだ」

「へぇ~」

 何だか感心してしまう。そんなことにまでこだわっているのか。私はあらためて獏さんの入れてくれたコーヒーを見つめる。

「コーヒー豆一つにも色んな背景があるのかぁ」

「奥が深いだろ、コーヒー一杯にも」

「はい」

 私はあらためてコーヒーをすすった。そんな話を聞くとよりコーヒーがおいしかった。そして、獏さんのそんなやさしい人柄になんだかホッとした。

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