第22話 反応
「ここだよ」
確かに港から五分とかからない場所に獏さんの家はあった。
「あっ、かまど」
玄関に入ってすぐの広いたたきのすぐ横に、古い大きなかまどがあった。
「うん、いいだろ」
「はい」
「こいつを何とか復活させたいと思っているんだ」
「へぇ~、いですね」
「こいつでご飯を炊いたら絶対うまいよ」
「そうですね」
私は古い大きなかまどをしげしげと見つめる。なんかレトロでいい感じだった。
「あっ、囲炉裏もあるんですね」
「うん」
居間には囲炉裏まであった。
「すごい家ですね」
私はあらためて家の中を見回す。黒光りした年季の入った太い柱、味のある土壁、雰囲気のある板間、すべてがなんだかすごかった。
「うん、築二百年の古民家だよ」
「二百年・・」
そう聞くとなんだか、さらにすごいもののように感じてくる。
「二百年て、何時代ですか」
私は獏さんを見る。
「えっ、いや、普通に江戸時代じゃないの?」
「ああ、そうですか。私は歴史に疎くて」
「そんなに難しいかなぁ・・💧 」
獏さんは困惑気味に首をかしげる。
「ん?んん?」
その時、ふと私の足元を見た獏さんが初めて、私の足元にいる小丸に気づいた。
「んん?」
獏さんは二本足で立っている小丸に顔を近づけ、まじまじと見つめる。そして、目をぱちくりさせる。
「えっ?」
獏さんが私を見る。そして、もう一度小丸を見る。
「・・・」
獏さんは言葉を失っていた。
「そうですよね」
そう、この反応。この反応だよ。
「そうですよね」
「えっ?」
これが通常の反応だよ。私は、獏さんの驚きをよそに、一人安心していた。
「ええっ・・?」
しかし、獏さんは困惑するばかりだった。
「よろしくにゃ」
「しゃべった」
獏さんはさらに驚く。
「うんうん」
そう、これが正常な反応だ。村の人たちがあまりに大らか過ぎて私は不安になっていた。やっぱり、これが通常の人間の正常な反応なのだ。私は、困惑する獏さんの隣りで一人ほっとする。
「えっ?」
獏さんは、とにかく混乱する頭に何か答えになる光明を見い出そうとするかのように、私を見る。
「小丸です」
私はそんな獏さんに小丸を紹介した。
「・・・」
獏さんはもう一度あらためて小丸を見る。
「小丸だにゃ」
「・・・」
獏さんは、小丸を見つめ、しばし悩んでいた。この目の前の現実をどう受け止めていいのか悩んでいる様子だった。私が通過した過程でもある。その気持ちは分かった。
「僕はずっとぬいぐるみなのかと思っていたよ・・」
しばし悩んだ後、少し落ち着いた獏さんは、しかし、まだ、驚きと興奮を内包したまま言った。
「へぇ~、しゃべる猫かぁ」
しかし、獏さんもすぐに小丸を受け入れる。そこはやはり、大らかな人だった。
「君は賢いんだな」
そう言って、獏さんは小丸の頭をなでた。
「にゃにゃにゃ」
小丸は照れながら、でも、とてもうれしそうだった。
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