第21話 道行
「小早川さんはなんでここに?」
私は歩きながら隣りの小早川さんを見上げた。
「獏でいいよ。もう慣れたから」
「私はななでいいです。みんなそう呼んでたし」
「今はふらふらしているけど、僕も昔はちゃんと働いていたんだ。大学を卒業して、就職活動して、大手企業に就職していたんだ。でも、鬱病になってしまってね」
「えっ」
同じだ。私は驚く。
「今じゃそんな風には見えないだろ」
「はい」
全然元気そうだ。快活そうにすら見える。
「このままでは僕は死んでしまう。そう思ったんだ。そして、僕は会社を辞め、旅に出た。世界中色んな所を巡ったよ」
「世界中・・」
なんかすごい。
「うん、色んな所に行った。インド、チベット、南米のアマゾンの原住民のところにも行ったよ。アフリカのサバンナを彷徨ったこともある。アラスカでオーロラを見た。そして、ここに辿り着いた」
「・・・」
世界中を巡ってここに来たのか・・。ここはそんなにすごいところなのか・・?私はあらためて漁村内を見回す。
「ここに来て、僕は生まれ変わったんだ」
獏さんは、遠くを見つめるように言った。
「生き返らせてもらったと言った方がいいのかな」
「そうなんですか・・」
私も生まれ変わっていた。生き返らせてもらった。第二の人生を生きているような感覚だった。ここでも話が合う。私はなんだかうれしくなってきた。
でも、なんとなく、この時、私も鬱病だったということや、ここで生まれ変わったことは言いそびれてしまった。
「ん?」
ふと足元を見ると、小丸が私の足にしがみつくように歩いている。小太郎が小丸に関心を示していて、でも、小丸は小太郎が怖いらしく、固まったままそんな小太郎から逃げるように私の陰に隠れる。小丸と小太郎とは全然気が合っていないみたいだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。