第19話 過疎
私は小丸のことが心配だった。小丸を見て、みんな驚いて気味悪がったりするんじゃないか。
「小丸ちゃんはかわいいのぉ」
「ほんにかわいい猫じゃがね」
「はいにゃ」
「・・・」
まったくの杞憂だった。
みんな大らかなのか、天然なのか、はなさん同様、この村の人は小丸を見ても誰も驚かない。二本足で立ち、しゃべる猫は普通、相当驚くと思うのだが・・。
「これ食べなんせ」
「ほれ、これも食べなんせ」
「ありがとにゃ」
朝、二人で海岸沿いを散歩なんかしていると、みんな、いつも朝獲れた新鮮な魚を差し出し、小丸をかわいがってくれる。
「・・・」
私たちにとっていいことなのだが、しかし、それにしてもこの村の人たちは大らか過ぎる・・。あまりに、二本足の猫を普通に受け入れ過ぎている・・。
「過疎やからのぉ。もう若いもんは誰もおらんくなってしもうた。この村は年寄りばっかりじゃ」
そう言って、六十六歳でまだまだ現役漁師の梅さんの旦那さんの吉雄さんは笑った。この人のおかげで、私と小丸は毎日おいしい魚をタダで食べることができる。吉雄さんは、毎日何やかやと、朝一番の漁で獲れた魚や魚介類をたくさん私にくれるのだ。
「じゃから、あんたがここに越して来てくれて、わしらはうれしいんじゃ」
そうしみじみと吉雄さんは言う。
「・・・」
そう言われると私もうれしかった。自分の存在がうれしいなんて今まで言われたこともなかった。逆に邪険にされ、疎んじられることはいっぱいあったが・・。
「あっ、そうじゃ」
「えっ、なんですか」
突然、大きな声を上げる吉雄さんに私は驚く。
「そういえば、あんたと同じ世代くらいの青年がちょっと前から住み始めとったわ。忘れとった」
「えっ、そうなんですか」
そんな大事なことを忘れないでください・・。
「あんたで二人目じゃったわ。あっはっはっはっ、忘れとった。忘れとった。あっはっはっはっ」
吉雄さんは何がそんなにおもしろいのか豪快に笑う。
「・・・」
私以外にも、この村に移住した人がいる・・。吉雄さんの豪快な笑い声をよそに、この時、私はなぜか何とも言えず不安を感じた。
「あんた、晩ご飯食べていきんしゃい」
「えっ、あ、はい、ありがとうございます。いつもいつも」
そこに梅さんがやって来て、また今日も晩ご飯をごちそうになることになった。梅さんの作るあさりの釜めしは最高においしかった。
「やったにゃ」
小丸も梅さんのあさりの釜めしは大好きだった。
「・・・」
それにしても、私はその吉雄さんの言っていた青年が気になった・・。
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