第18話 田舎

「お茶飲んでいき」

「はい」

 この村にいると、よくお茶に呼ばれる。そのままご飯までごちそうになることもしょっちゅうだ。人がいいのははなさんだけではなかった。この村の人たち全員が、恐ろしいほどいい人ばかりだった。

 しかし、田舎はいいことばかりではなかった。

「ぎゃあ」

 私は飛び上がる。

「ぎゃあ、ぎゃあ」

 バカでかいムカデが目の前を這って行く。

 田舎は虫が多い。それが普通に家に入り込んでくる。しかも、虫のレベルが違う。蛇かと見まごうばかりのバカでかいムカデや、ヘリコプター並みのものすごい羽音を響かせる大スズメバチ、殺傷能力のあるレベルの虫が普通に家の周りにいて、それが時々家の中に入ってくる。

「小丸ぅ~」

 こんな時、私は小丸にすべてをお任せする。

「わかったにゃ」

 普段おっとりしている小丸だったが、やはりそこは動物。旧来持つ本能と感で、素早く逃げ去った敵を見つけると、あっという間に捕まえてねじ伏せてしまう。

「さっすがぁ~」

「えっへんだにゃ」

 ここでは相当頼りになる奴だった。

「ぐわぁっ」

 だが、安心したのもつかの間、私は再び叫ぶ。

「どうしたにゃ」

「ヤモリ、ヤモリ」

 私は壁を指さす。今度はヤモリだった。ヤモリが壁にへばりついていた。

「小丸ぅ~、お願い早く、早く何とかしてぇ~」

 そして、今日も私は小丸にすがりつくのだった。

「ヤモリは、家の守り神なんぞえ」

 次の日、またふらりと遊びに来たはなさんが、縁側でお茶を飲みながら私に言った。

「えっ、そうなの」

「そうじゃ、家を守るでヤモリじゃ」

「ああ、なるほど。そうなんだ。でも、なんで?」

「虫を食べてくれるんじゃ」

「ああ、なるほど」

 しかし、虫以上にヤモリの方が私は苦手だった。

「ここはいいとこだけど、虫が・・」

 私ははなさんの隣りで弱弱しく呟く。虫とヤモリに私は疲れ切っていた。

「ああ、あと蛇も出るでよ」

「ええっ」

 虫にすら弱っている私に、はなさんはさらりとすごいことを言う。

「マムシもいるから気をつけねばなんねぇぞ」

「えええっ」

 さらに怖い話を聞いてしまった。

「マムシに噛まれたら大変じゃ。この辺は近くに大きい病院はねぇでな」

「・・・」

 田舎暮らしに自信を無くしかけていた私に、穏やかにさらにとどめを刺すはなさんだった。

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