第15話 空家

「あんたら旅の人かね」

「えっ、あ、はい」

 突然、村人と思われるおばあさんに話しかけられた。

「お茶でも飲んでいきんさい」

「えっ、いいんですか」

「ああ、ええよ。こっちだ」

 私たちはそのおばあさんについて行った。


「これも食べなんせ。これも食べなんせ」

 おばあさんの家に行くと、お茶と一緒に食べきれないほどの色んなお菓子や漬物が出てくる。

「猫ちゃんにはこれ、食べなんせ」

 小丸には小魚の干物を渡す。それを小丸は前足で受け取る。それにおばあさんは全然驚いていない。というか、小丸は上体を起こしちょこんとお尻で座っていた。そこにそもそも驚いていない。

「うまいにゃ」

 そのまま両前足で魚を持ったまま、小丸は魚をかじり出す。うまいうまいと感想を言う猫に、おばあさんはやはり全然驚いていない。かなり大らかな人らしい。というかかなり天然な人なのか・・?

「いいとこですね。ここ」

 開け放たれた縁側の窓一杯に広がる真っ青な空と海を見ながら私は言った。

「ああ、いいとこじゃ。ここは」

 おばあさんは、ニコニコと答える。家の中に初夏を思わせる気持ちのいい風が吹き抜ける。潮の香りがした。

「こんなとこだったら住んでみたいな」

「住んだらいいがね」

「えっ」

「空き家はいっぱいあるぞね」

「ほんと?」

「ああ、ほんとじゃども。うちの親戚の家も空いとるがね。見なんさるかね」

「うん」

 私たちは立ち上がった。

「ここじゃで」

 それは、おばあさんの家からさらに山側に数分歩いた古風な一軒の平屋建ての家だった。小さいけど、どこか落ち着いた趣があって、私は一瞬で一目ぼれした。

「うわぁ~、いいなぁ」

 中に入ると、私は家の中を見回す。木造で、壁は土壁。独特の古風な雰囲気があって私はそれに痺れた。大きな柱時計まである。

「ああ、おばあちゃんちの匂いだ」

 小さい時に、もう亡くなってしまったが、夏休み、田舎の母方の祖母の家に遊びに行ったことがあったが、そこと同じ匂いがして、なんとも懐かしかった。

「よかったら、貸したげるでよ」

「えっ、いいんですか」

「ああ、いいでよ。誰も住んどらんし、逆にこっちが助かるわいな」

「やったぁ~」

 私は思わず踊り上がってしまった。

「なんかツイてきたわ」

 私は興奮していた。

「ぼくも気に入ったにゃ」

「魚おいしかったの?」

「うんにゃ」

「なんか風向きがいい感じよ」

 私は小丸を見た。

「うんにゃ、いい感じだにゃ」 

 小丸もうれしそうだった。

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