第12話 動画
「よしっ」
私は閃いた。
「なんだにゃ?」
そんな私を小丸が不思議そうに見つめる。
「あんたを主役にユーチューブを始めてみようかと思うんだけど」
「にゃ?」
そして、一週間後。
「当たった」
「宝くじかにゃ」
「違うわ、見て、百万回再生よ」
私はノートパソコンの画面を指さす。
「百万回再生?」
「ユーチューブよユーチューブ」
「ユーチューブ?」
「あんたを主役に動画撮ったの。そしたら百万よ百万」
「?」
小丸は自分の歩く動画を不思議そうに凝視している。
「やっぱり二本足で歩く猫なんてみんな驚くわよね」
「にゃ?」
小丸は自分の存在がよく分かっていないようだった。
「わっ、すごい。こんなにお金入ってくるの」
そして、待望の広告収入が入って来た。
「二十二万三千円・・」
私は震えた。体の芯から震えた。
「これで、とりあえず生活費は何とかなった・・」
遅れていた家賃も、クレジットカードの支払いも、これで支払うことができる。
「よかった」
私は、ホッとした。心の底からホッとした。魂の底からホッとした。これでホームレスにならずに済む。路頭に迷わなくて済む。危うく野良猫と野良人間になるところだった。
「はい」
その日の夕方、私は、小丸の前にお皿を差し出す。
「にゃ?」
小丸がその私の差し出したお皿の上を見つめる。
「マグロのお刺身だよ」
「マグロってなんだにゃ?」
小丸が私を見上げる。
「お魚だよ」
「おさかにゃ?」
小丸はまだ魚を知らないようだった。
「そう、お魚よ。猫はお魚が大好物でしょ。お魚くわえたどら猫~、おおかけてぇ~♪大体漫画でもアニメでも猫は魚をくわえているわ」
「そうなのかにゃ」
小丸はマグロのお刺身をまじまじと見つめる。
「あんたのおかげで救われたわ。生活も、私のメンタルも。だからこれはお礼」
「にゃあ・・?」
小丸は、やはり自分の存在がよく分かっていないらしかった。
「さあ、食べて、結構高かったんだから。私でもなかなか食べらんないのよ」
「じゃあ、いただきますにゃ」
小丸はおずおずと、初めての魚を食べ始める。
「始めて食べる魚がマグロの刺身なんてなかなかよ」
「にゃあ」
「おいしい?」
「おいしいにゃ」
小丸はうれしそうな顔を私に向けた。そして、小丸はおいしそうにマグロの刺身を食べる。
「よかった。奮発した甲斐があったわ」
「でも、何もしてないにゃ」
小丸が顔を上げた。
「いいのいいの、あんたは、あんたでいさえしてくれればいいの」
「にゃ?」
小丸は首をかしげる。
「あんたが来てからいいことばかりだわ。ふふふ」
私はよく分かっていないそんな小丸の頭をなでた。
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