第11話 くじ
「また外れたわ」
「なんだにゃ?」
小丸が私を仰ぎ見る。
「宝くじ。ロトシックスよ。当たれば六億円。一気に今の金銭的苦境から脱出できるわ」
「働けばいいにゃ」
「正論を言わないの。人間は複雑なんだから」
小丸のおかげでだいぶ鬱はよくなってきていたが、でも、やっぱり働くのはまだ怖かった。
「はあ~、あたしこんなに不幸な身の上なんだから、もう少し、ついていても罰は当たらないと思うのよね」
私は外れたロトクジをため息交じりに見つめた。今は数百円でも、大きな負担だ。
「神様はイケズだわ」
「神様?」
小丸は首をかしげる。猫には神様という概念が分からないらしい。
「う~ん」
私はうなる。とにかく今の私の悩みはお金だった。
「あんたは悩みとかないの?」
私は小丸を見た。
「猫は悩まないにゃ」
「そうなの?」
「猫は悩む要素がないにゃ」
「なるほど・・」
猫は何も持っていない。お金も物も肩書も、家すらない。
「人間は色々と複雑に持ち過ぎるのね」
「そうだにゃ」
やっぱり、猫の視点で人間の悩みを見つめると、なんだかほんとにくだらない。なんだか不思議と元気が出てくる。
「あんたと出会えてよかったわ」
私は小丸のその小さな体を両手で持ち上げ、目の前に掲げた。
「にゃ?」
小丸は持ち上げられるがままに、だらりと手足を伸ばしたままそんな私を不思議そうに見つめていた。
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