第10話 概念

「私のお父さんはギャンブル中毒をこじらせて、失踪。お母さんはカルト宗教にのめり込んで、そのまま家族を捨てて教団施設に家出。お兄ちゃんは、そんな二人が元で、グレにグレて行方知れず。親戚縁者もそんな私たち家族に愛想つかして近寄らず。実家も土地も父の借金のかたに取られちゃったし、もちろんその他の財産なんかあるわけもない。私はそんな天涯孤独の悲しい女の子なの。なかなかハードな身の上でしょ?」

 私は小丸に身の上話を聞いてもらっていた。小丸は聞き上手だった。精神科のお医者さんや、最近通い出したカウンセリングのカウンセラーなんかよりも、よっぽど話を聞くのがうまい。それになんか癒される。

「あっ、あんたも家族いないんだったね」

「猫にはそもそも家族を作る習性がないにゃ」

「そうか。そう考えると、あなたの方がかわいそうかもね」

「?」

「そうか、家族って概念がそもそもないから悲しくもないのか」

 小丸は親に捨てられて、公園に一人でいたわけだけど、でも、そもそも猫はそれが当たり前だから別に惨めでもない。

「なるほど」

「?」

 一人納得する私を小丸は小首をかしげて見ている。

「なんだか元気が出たわ」

 猫の世界を考えたらなんだか、人間の世界が急に狭いものに思え、世界が広がって悩みが楽になった。それに小丸に色々話や愚痴を聞いていもらっていたらなんだか、心が軽くなって来た。小丸には何か不思議な癒しの力がある。

「お前は実はすごい奴なのかもね。ふふふ」

 私は、そう言って、ピンッと軽く小丸の小さなおでこにデコピンした。

「はにゃ?」

 小丸は不思議そうにそんな私を見つめていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る