第3話 夜桜沙耶華と世話係とお隣さん

入学後…新入生が入るものと言えば…、そう…部活だ。掲示板には色々な勧誘の部活でたくさん埋まっていた。


さて…何の部活に入ろうかしら?



私は共学校に入学にあたり、お父様と交渉した。高校に上がって世話係付き一人暮らしをすること、習い事の代わりに部活に入る事。政治家であるお父様には強く生徒会への加入を勧められたが私は嫌だった。


『お父様!高校生活は一度きりです!そして10代が最後なのです!好きな部活をやらせて欲しいです!!


私の最後の我儘をお許しください!叶わないなら身投げでも…』

とハッキリ言うとお父様は折れた。


それから私の世話係の23歳の女装男…、つまりはオネェと世間では呼ぶ


【荻原美月】さんが一緒に私と都会へ引っ越した。

美月さんは私のマンションの隣の部屋を借りているが、鍵は合鍵があるので料理や掃除、洗濯と任せている。見た目は完璧な美人であり、オネェと言うこともあり、男が好きらしいので私はオネェ様美月さんでもたびたび脳内のBL展開を繰り広げられることができるが、美月さんは唯一、私のBL趣味を知っている。


掃除の時に隠してある同人誌本を発見されたからだ。仕方なくお父様達には内緒にしてくれるらしいから助かる。その代わり自分を妄想の種にしないことと釘をさされたけど。



朝、目を覚ますとニコニコした美女が至近距離で見つめていた。


「おはよう美月さん。今日も綺麗ですね」

と言うと美月さんは照れて


「あら……沙耶華お嬢様の方がお綺麗じゃない!寝顔…最高よ」

と悶えていた。


「顔を洗って着替えたら朝食ですよ」

と笑って嬉しそうに言う。

本当に女の人と錯覚しそうになる。

しかしその後、数分間、美月さんがトイレに篭ったことを私は知らなかった。


着替え終わると美月さんが椅子を引いてくれた。優しい。


「さあ、食べましょうね」

と朝から気合い入れまくりの朝食が並んでいる。栄養バランスに配慮された朝食だ。綺麗な目玉焼き、新鮮サラダに自家製のジャム数種類、絶妙なフレンチトースト、健康スムージー。


「いつもありがとう、美味しそうだわ、美月さん」

とお礼を言うと照れる美月さん。


「あらあ!いいのよぉ!私が好きでしてるし!!沙耶華お嬢様が喜んでくれて嬉しいわ!」

とクネクネと本当に嬉しそうだ。

朝食を食べ終わり、お弁当を渡されて玄関でお見送りされる。美月さんはいつもハグして頰にすりすりしてくる。

今日もなんかたっぷり堪能された。


あーあ、これが私でなく、年下イケメン大学生ならお似合いな所なのに残念だわ。

美月さんは攻めでイケメン年下大学生が受け…。いや、大学生が逆に攻めもありか?

うーん。、と朝から妄想に耽っているとエレベーターが開く。

中には前髪が長い、予備校生みたいな男の人が乗っていた。必死で単語帳を見ている。


私はぺこりと頭を下げた。すると

バサッと単語帳を落としたので拾ってさしあげたら、


「あ、ありがとう…ございます…」

とお礼を言う。ん!?

よく見るとこの人…中々綺麗な顔立ちね。ハッ!


か、隠れイケメン!?な、なんなの!?


「いいえ。私205号室の夜桜沙耶華と申します。春から越してきましたの」

と言うと予備校生は


「…!!あ、ああ!お隣なんだ!?お、俺…204なの!!冴島紘也っていいます!」

と慌てて言う。


「まあ、そうでしたの。よろしくお願いします」


「よ、よろしく…」

それからマンションを出て、駅まで一緒に歩くことになった。


「予備校が駅前なんだ…。ご、ごめんね。俺みたいな冴えない奴が隣で…」

と言う。


「いえいえ、自信をお持ちになってくださいね。冴島さん」

と話しているとなんか黒塗りベンツが近付いてきた!!


ウイインと窓が開いて中から玲一郎が


「沙耶華!?な、ななな、隣の男は誰だ!?ま、まさか誘拐か!?」

と盛大に勘違いした。相変わらず頭がおかしい男ね。


「おはよう玲一郎。生憎だけど、この方はお隣さんなの。駅までご一緒しているの」

と言うと


「ハア!?ま、また隣だと!?どう言う事だ!?」


「隣と言ってもマンションの部屋が隣ということよ。貴方はさっさと学校へ行ったら?私は…電車へ乗って行くから」

と言うと玲一郎は真っ青になり


「ハアアア!?で、電車だって!?し、正気か!?あんな庶民が大量に乗り、箱詰めになっておっさんに痴漢に遭うような乗り物に乗るー!?」

と失礼なことを言う。


「私…女性車両に乗るから平気よ」

と言うと一瞬ホッとした玲一郎は


「別に、無理して乗らなくても俺が乗せてやってもいいけど!?」

と止まり、扉を運転手が開けた。


「折角だけど、私はお隣さんと親交を深めたいので歩いて行くわ。玲一郎、また学校でね」

と無視して歩く。

玲一郎は青ざめ、冴島さんはちょっとあわあわした。


「い、いいのかな?彼?お友達?」


「ああ、あの男は一応親が勝手に決めた婚約者ですが、お互い何も思っていませんの。彼には相応しい人がいますし」

と言うと驚き


「ええ!?そ、そうなんだ!?てっきり彼は君のこと…好きなんだと思ったけど!?」

と言い出す。


「いえ、そんな!私より素晴らしいお相手がいますの!!」

と私は強く言った!月城くん以上の受けは考えられないわ!玲一郎には月城くんとラブラブになってほしい!


そして冴島さんは美月さんといい仲になってほしいな!それには…


「冴島さん、せっかくお隣ですから夕飯ご一緒しませんか?うちで。実は私にはお世話係がいて、その方の作る料理は最高なのです!」

と言っておくと


「え、あ、あの!そんな!い、いいんですか!?」

と赤くなる冴島さん。もちろんいいですとも!


「是非とも親交を深めましょう!!」

と言い、約束し、駅で別れた。本日は夕食が楽しみだわ!

と私はウキウキと女性専用車両に乗り込んだ。



まさか今、私のマンションの部屋の寝室で


「ハア!ハア!沙耶華お嬢様!好き…」

と恍惚な顔で、ベッドでゴロゴロしている女装男がいるとは知らずに。

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