春の陽射しは柔らかく
洗濯を干しながら歌を口ずさむ。春になって晴れ間も増えて、洗濯が気持ちいい。白いシーツがパタパタと風に揺れる。騎士団や傭兵団の人たちのシーツを洗うのはいつも大掛かりだ。
「その歌、聞いたことある……」
背後からの声に驚いて振り返った。アデル様だった。
「だからなんで、そんな大昔の曲を歌えるんだ!?しかも……その選曲が……」
ハア……と盛大にため息。ガルディン様が好きだった曲を私は気づかず自然と口ずさんでいた。アデル様は間違いなくガルディン様。
「アデル様が好きな曲、いつでも歌います」
嫌だと呟く。い、嫌なの!?理由がわからなくてちょっとショックだった。……歌う時、気をつけよう。
「いや、でも……時々聴きたい」
どっちよ!?どっちなのよ!?翻弄される私。
「えーと……そういば、アデル様はどうしてここに?お仕事中ではなかったのですか?」
「ああ。ちょっと用事があって寄っただけだ。すぐに戻る」
なんだと私はしょんぼりする。
「………あからさまに顔に出しすぎだろう?」
私のがっかりとした雰囲気伝わったらしい。
「アデル様があまり感情を出さないので、ちょうど良いバランスでしょう?」
「その理屈がわからない。ニーナは変だ。……まぁ、来週、街で春祭りがあるから、その日は一緒に行こう」
「えええっ!?良いんですか!?お祭り、実は生まれて初めてなんです!すごく楽しみです!」
私がワクワクしていると、アデル様の無表情の顔に明るさが微かに灯る。少しずつ表情がでてきてるし、その微かな変化に私も気づくことができるようになった。
会った頃よりも確実にアデル様は変わってきてる。
焦らなくても大丈夫よね。まだ残り9年もあるもの!時間はあるわ。少しずつアデル様の心に近づいていけたらいい。
仕事に戻るアデル様の背中を見送った。
その夜に大変な事態が起こることを私はまだ知らなかった。
―――時間があるなんて、なんで思えたのだろう?そんなこと保障されていないのに。
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