その距離を埋めるまではまだ遠く
私の当然の申し出にアデル様は目を見開き、そして落胆するように下を向く。
「できない」
「どうしてでしょう?私は……アデル様のことを……」
スッと手をかざして、私の言葉の先を言わせない。
「それ以上言わないでくれ。オレは普通の幸せは望んでいない。魔物を作る装置を発動させたことによって、どれほどの人の命と幸せを奪ったかわからない。自分だけ幸せを感じてはいけない」
戒め……?でもそれなら、あなたをおいて先に亡くなってしまった私のせいでもある。きっとセレナが生きていたら、そんなことしなかったはずだわ。
「アデル様の前世は前世です。今を生きてはいけないのでしょうか?」
こんなセリフ言えた私ではないのは100も承知だった……本当は誰よりわかってる。前世の記憶にとらわれることを。
だって私は孤児院にいた時、ガルディン様とセレナのことを励みにしていて、一人じゃないって思っていたもの。その記憶に逃げることで両親がいない寂しさを何度紛らわしたかわからない。
「誰も知らないことだが、自分が知っている。誤魔化しようのない真実だ。幼い頃にこの記憶に気づいて、本当に起こったのか調べた。過去にそんなことが起きたのか?と。結果は残酷なほど真実だった」
「アデル様……」
だからどうか……と悲しいほどの言葉の響きを持って、私にお願いをする。
「契約の期限が来たら、何も言わずに去ってくれ。その日が来るまでの契約に変わりはないし、この先、変えるつもりもない」
私ではだめなのかしら?セレナはどうしたい?
セレナはきっと今、私と一緒に泣いている。ガルディン様……アデル様の後悔と孤独に打ちひしがれている心が痛いほど伝わってくる。笑顔も幸せを感じる心もすべて捨てて生きてきていた彼に私はなにができるだろう。
私は涙をぬぐった。
きっと今なおガルディン様はセレナのことが好きなのね。そして、アデル様も。私に似ていると言い、影を追い求めていたのはセレナのことだったことに私は気づいてしまった。
でもニーナである私のことを望まれなくても好きだって気持ちは変わらない。
落ち込まないわと涙を拭った私はアデル様から、目を逸らさず、真っ直ぐ見た。なんのために強くなりたいと思って生まれ変わったの?せっかく会えたのに私が自分の気持ちに負けてどうするの?
今、私はあなたの罪の重さと孤独で凍ってしまった心を溶かす方法を知りたい。
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