震える夜に
その日の夜、久しぶりに魔物の襲来の鐘がなった。カンカンカンと高い鐘の音が耳の奥まで届いてきて、恐怖心が煽られる。
「ニーナ様!早く!」
アンリが名を呼ぶ。私は廊下を走って、地下室へ行こうとした瞬間、屋敷の玄関のドアが開いた。
「おい!皆、来るぞ!魔物が!数が多すぎるんだ。討ち漏らした物がやってくる!街にも数体入った!」
騎士団から知らせようと息を切らせて来てくれた騎士の顔色は蒼白だった。
「街に!?」
私は窓の方を見る。今夜は晴れている。満月だったはずだ。その月を隠すような黒い鳥のような影が横切ったのが見え、ゾッとした。鳥の羽ばたく音が聞こえる。
アンリがキャー!と悲鳴をあげてドアの向こうを指差した。
「あ、あああ……あれを!」
屋敷の庭先にいるのは赤い目をギョロリとさせた黒い鳥だった。大きな羽とクチバシ、3メートルはある体。
騎士が顔を強張らせ、剣を抜く。
「奥様たちは避難を!ここは食い止めます!非番の騎士たちも出動していますから、すぐこっちにも助けはきます!行ってください!」
私は足がすくむ。アンリは体を震わせている。
「アンリ……逃げて。私はここで屋敷を守るわ」
「奥様!?」
驚く声に私はグッと震えてる自分の手を抑えて握る。
「屋敷や街にアデル様がいない時は私が代理の主人でしょう?少しでも役に立ちたいの。ジノと訓練してきたもの」
訓練してきたけれど、これは訓練ではないし、本気で魔物はこちらを殺そうとしている。すごく怖い………恐怖に負けてしまいそうな心を奮い立たせる。
だって……セレナの時も今も守ってもらうだけなんて嫌。やらずに後悔よりやって後悔!
屋敷のドアから私は飛び出した。魔法の才能のほうがあるとジノは言った。今日は思いっきり使うわ。
私の姿を捉えて、鳥がバササッと大きく羽を羽ばたかせた。私はすぐに術の詠唱を始める。
騎士が鳥の爪を剣で受け止めて弾くが、大きな羽根で体を吹っ飛ばされて、地面に叩きつけられる。
鳥が赤い目で私を見た。心臓がキュッとなる。鳥がバサバサバサッと大きく羽を羽ばたかせる。風が起こる。私は手の中の力が集まるのを感じる。私の足が震えている。
覆いかぶさるように鳥が黒い体をぶつけてきた。怖い……でも目を閉じたらダメ!私は黒い鳥の姿を見据えながら叫ぶように術を放った。
ドンッと爆音がし、メラメラと燃える黒い鳥。周辺が一瞬明るく照らされた。甲高い声をあげて燃えていく黒い鳥は灰のようにさらさらと黒い砂を流して消えた。
「や、やったわ……やれたわ………」
私はペタンとその場に膝をついた。屋敷を守ったわ……。私でもできた……。
安堵すると共にまだ帰ってこないアデル様が無事なのか?と不安が夜の闇と共に胸の中にじわじわと滲んでくる。ここまで魔物が来たことは無かった。今回の魔物の襲来が大きいものだとわかる。
どうか……どうか無事でいて。私はなかなか立ち上がれないまま、夜の空にそう願った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます