服装は大事か?
「服、それしかなかったんだな。そういえばあまり服が変わらないと思っていた」
アデル様がボソッと夕食時に言い出し、私はフォークとナイフを危うく手から落としかけた。
私の姿、目に入ってましたよね?いや、むしろ目に入るようになってきたってことなの?と確認したくなる衝動を抑える。
「えっと……そうですね。あまり私は服を持っていないかもしれません。だけど別に不自由ではありませんし……」
「いや、言ったはずだ。欲しいものがあれば言えと」
食べる手を止めてアデル様がそう言う。
「必要か不必要かと言われたら、別にいらないかな……と思ったんです」
はあ……とため息をつかれてしまう。なんで!?ため息!?
そりゃあ、ちょっと継ぎを当ててある服だけど……貧乏そうなのかしら……きっとそうなのね。人から貰ったものだし、何度も洗濯して色も剥げてきている。
でもっ!掃除とかすごくしやすいし、労働着として最高……ああ……それがダメなのねと元王女の私は気づく。
静まり返った夕食はとても気まずかった。
「買ってもらえば良いんですよ!」
部屋に帰ると、水を持ってきてくれたアンリがそう力強く言う。
「無駄遣いじゃないかしら……」
「辺境伯の奥様が継ぎのある服を着ているってなったら、それこそ恥ずかしいのは旦那様ですよ!?」
「そ、そうなのよね。そこを私も見過ごしてたわ」
自分のことしか考えてなかったわと反省する。動き回れる服装としか私の中で必要としていなかった。
「変わってますね……辺境伯の奥様になって、贅沢したくないんですか?最初、ニーナ様のこと、メイド達の中で、お金目当ての贅沢な暮らしをしたい平民って思っていたんですよ」
そしたら……と、アンリは続ける。
「メイドのような仕事はするし、特に贅沢も求めないし、質素な服をいつまでも着てるし……」
もちろんお金目当てではある。10年後は貰ったお金でのんびり暮らすんだ〜って人生設計立ててるものと言いたかったけど、偽装結婚中なので、言えない。
「ちょっと来てくれないか」
それから数日後のお昼を少し過ぎた頃だった。突然アデル様が現れた。珍しい時間に屋敷にいる。
なんで!?仕事行ったんじゃないの!?私が振り返ると来いと手招きする。
ばんっと応接室の扉を開けた。箱だらけ?片付けてほしいってこと?
「えーと、お掃除ですか?」
「ちがう!これをとりあえずやる!後、明日、ドレスを作るために店の者がサイズを測りにくるから、大人しく屋敷の中にいろ」
「へっ?ええっ!?」
箱の中には女の子が好きそうな靴や装飾品、帽子に服などが入っていた。キラキラしていて、キャーと言えば良いところなのだろうけど、私は困惑した。
「あの……どういう……?」
「それなりの身なりをしてろ」
「でも動きにくいので……」
「労働着も新しく作れば良い。着替えるようにすればいいだろう!?」
とてももどかしげに言うアデル様。
「嬉しくないのか?トーラディム王国から取り寄せた品物もある」
あの大国からもわざわざ!?栄華を極め、華やかな王国である。
「いいえ、嬉しいですけど、私なんかに、こんなお金をかけるなんて……」
「構わない。オレの妻だからな」
妻っ!妻って言われた。私……今、顔が赤くなった?今の言葉はそんな意味じゃないでしょう?契約してる立場についての言葉よね?そう確認しようとしたけど、言葉が何故か私の口から出なかった。
なんだか顔がまだ熱い。
そっと箱を閉め、アデル様を見て、私はニコッと微笑んで言った。
「ありがとうございます。頂いたものは大切にします」
「……ああ」
アデル様も少し顔が赤い気がすると思ったのはきっと私の気のせいだろう。
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