06


 時刻は午後五時十三分。

 よしのと真美は竹林から少し離れた公園のベンチに座っていた。公園と言っても、座る場所と植え込みが少しあるだけの狭い簡素な場所だ。竹林の入り口が見える位置で、長時間座っていても不自然ではない場所は、ここしかなかった。


「ねえ真美。ちょっとこれ、やっぱり食べにくくない?」

「まあ、そうかもね。急に中華食べたくなっちゃって……」


 よしのは少し細めの焼きそばの麺と、コリコリとした食感のきくらげを口に入れる。


「まあでも、味はすごくおいしいわね。値段もかなり安くしてくれたし」

「でしょ! ていうかやっぱこれ、めちゃうまっ!」


 真美は本当に美味しそうに麻婆豆腐を食べている。ただよしのはこの時、どこかこの作戦に不毛さを感じ始めていた。幽霊の正体に対する興味を完全に失ったわけではなかったが、あまりに帰りが遅くなったら防犯上よくないかもしれないな、とも思いはじめていた。もし特に成果が出なくても、八時を回る頃までにはここを出ることにしよう。なんとなく、よしのはそう心に決めたのだった。


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