07

「来ないね、何も」

「SNSの動画にあった、光る玉みたいなのも全然見えないよ……」


 時刻は午後七時になろうとしていた。二人のそばにある街灯には、すでにほんのりとした明かりが灯っていた。


「なんかちょっと暇かもね、これ」


真美は退屈そうな表情でそう言った。


「うん、思った以上にそうね……」

「お昼にやっている刑事ドラマとかで『何日か張り込みをしているとついに犯人が……』みたいな展開がよくあるけれど、あれって本当にすごいんだなって思ったよ」

「ほんとにそうね……もし私たちの今日の出来事に原作者がいたとしたら、その辺も考えてほしいものね」

「ほんとだよー」


 街灯の光は、時々ポツッポツッ、という小さな音を立てながら点滅している。


「ねえ、真美。そろそろお開きにする?」

「うーん……まあ、そうだね。そうしようか」


 よしのと真美は、鞄を持って公園を後にすることにした。二人は公園を出て、来た道を引き返すように歩き出す。もうすっかり日が暮れ、街灯の光と月明り以外、何も街並みを照らすものはない。結局無駄足になってしまったな、でも真美と二人でちょっとした冒険ができて楽しかったし、それはそれでいいか、とよしのは思った。


 その時だった。


 ちょうど竹林の前を通り過ぎて帰ろうとした時、真美が急に声をひそめた。


「待って、よしの」

「うわっ、急にどうしたの?」

「しぃ――っ!」


 真美は人差し指を唇に当てて「静かに!」という合図を送った。


 竹林の前の道路に、影が佇んでいた。


 影はよく見ると二つあり、一つはよしのや真美の身長と同じくらいの高さ、もう一つは少し小さいようで、何やら林の奥の方の様子を伺っているようだった。よしのと真美は近くの電柱の後ろに隠れ、息を殺してその様子を見ていた。夜の住宅街の薄明かりの中、よしのは目を凝らしてその影の姿を見た。


「あれって……女の子じゃない??」


 よしのがひそひそ声でそう言った。


「ホントだ! しかも背の高い方の子が着てるの、あれ、うちの学校指定のジャージだよ?」


 二つの影はしばらく竹林の前を行ったり来たりしていた。しかし、ついに敷地に足を踏み入れ、竹林の中に入っていこうとしている。


「確かめるなら今しかないよ!」

「うん!」


 ここでついに、真美が先陣を切り、竹林の入り口の方へと歩いていった。


「あの、すみません……こんばんは……いきなりで申し訳ないんですが、ちょっと聞きたいことがあります。少しでいいので、お時間いただけませんか?」


 すると、話しかけられた影の女の子二人は、こちらを振り向いた……かと思うと「すみませんでした!」と言いながら、慌てて道路にの方に引き返し、一目散に走り出してしまった。


「あ、ちょっと待ってください!」


 よしのがそう声をかけた時には、もう二人の姿は見えなくなっていた。

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