第19話 新選組確立
船の長旅ゆえ将軍・家茂様は大阪城でしばらく休息になる。
その間、拙者たち新撰組は、体がナマらないように、大阪城西、大坂南堀江町にある谷道場の一部をかりて稽古をする。
打ち込み、防御、反転、組み手、天然理心流の稽古を行う。
何も本格的な打ち込み稽古ではなく、組手も軽く汗を流す程度にとどめておく。
そして挨拶をして締める。
「新撰組は、これからも幕府や会津の隊列に加わり、大いに戦果を上げる隊となることだろう」
隊士達にも今回の警備護衛の従軍行進は、感銘したようで、新選組の士気が上がっている。
隊士たちを見まわす。隊士達もみな、自信に満ち、その言葉に充実感を得たことだろう。
通りの窓から、拙者たちがいる谷道場を覗く民衆が、「新選組や」と立ち止まって見ている。
武田はそれに気がつき、
「我々を見物に来る人間もいるみたいで、大阪でも新選組の名前が浸透してきていますね」
と拙者をいい気持ちにさせある。
「見ているものもいる。ならば、もう少し剣舞を披露するか・・・斎藤、源さん、天然理心流の組み手を見せてくれないか」
そういうと、隊士たちもあまり見たことない型見せ、組み手などを真剣に身始める。そして終わりに剣舞として
「拙者の虎徹の切れ味を見せよう。庭の端においてある藁竹(竹を藁で包んだもの)とそれを立てる台を持ってきてくれ」
そう言って隊士に竹を巻いた藁をもってこさせ、庭の中央に立て掛けて置かせ、試し切りをするため、虎徹を抜いた。
「おぉー」やはり剣を抜くと、空気が張りつめる。
正眼に構え、腰を落とし、藁にすり足で近寄ると
「キエー」
袈裟斬りで斜めに斬り落とす。一刀両断である。
「お見事」
拍手をする隊士達。みんなほれぼれとする。
虎徹をしまうと、みんなに向かい
「確かに腕上げるために稽古を進めるのは大事だが、それより大事なのは気組みが大事である。命がかかる真剣のやり取りは、こっちも怖いが、相手も怖い。その怖いと思う心消すことが出来るのが気組みなのだ」
目を閉じて深呼吸する。
また拙者が違う動作を始めたので緊張が走る隊士たち。
「呼吸、間合い、剣の長さ、それらを吟味して相手の込めた意識を、こちらが上回ることが出来るのが気組みだ。ただ驕り高ぶるのが気組みではない。気組みとは荒ぶる勢いではないのだ・・・・」
目を開き、藁の束を見つめるがすぐに行かない。間を作る。
「・・・・?」
一瞬、戸惑う隊士たち。
「キエー」
突然、発する拙者の声は今まで一番大きく高い声なので、驚く隊士たち。
「死を覚悟して、冷静に、相手の攻撃の心を読み、相手の気をくみ取り、相手の気を静め、相手を絡めとるのが気組みだ」
もう一度、虎徹を抜き、青眼に構え、
「こうなれば相手は、藁の杭と変わらない木偶の坊になる。あとは斬るのは簡単。ただこちらの刀を相手に当てれば崩れる」
今度は静かにゆっくりと。
斬った一段下の残る藁の杭に刃を落とし、斬る。
綺麗に斬れて、二つの目の藁が転がる。
「気組みは自分も相手も取り込む。場も取り込む。すべての気の塊を掴む。これが気組みだ」
刀をしまいながらまた隊士に向き直る。
今度は、しっかりと目に力が入った顔で拙者を見て、頷く隊士達。
剣舞を終えて、少し汗をかいたので、井戸で拭っていると、武田と尾形がくる。
「お見事でした。感銘いたしました。」
「剣舞ありがとうございます。大阪での戦いも局長がおられたら、山南副長も傷を負うこともなかったかもしれませんね」
尾形が言いながら手ぬぐいを渡してくれる。
「先日ケガをされた山南副長と比べて、近藤局長の気組みは大きいのだ」
武田も物知り顔で言う。
武田はいつも拙者を褒めてくれる。確かに褒められるのは大事だ。心が余裕を持ってくれる。しかし他人と比較するのはあまりよくないので、
「いや山南総長も腕は相当にたつし、気組みも相当鍛錬されている。だが拙者と山南総長との違いはこれだ」
虎徹をゆっくりと抜き、刃を二人に見せる。
「刀の違いだ」
少し左右に向きを変えて、陽の光を浴びせる。
「拙者の虎徹は、いまだに刃こぼれ一つない。江戸の刀は斬れるし強い。実用的に出来ている。しかし山南総長の刀は、摂津の刀だった」
「激しい戦闘であったのは分るが、副長の刀は戦闘中に破損した。山南さんの刀は、大阪の刀、摂津。『摂州住人 赤心沖光作』の刀であった。太平の世になると、実戦で用いることはなくなり、摂津は刀に彫刻を施し美しさを求めた。大坂刀は商品として美しさに注力し、見栄えばかりで作っている。刀を持つなら、摂州だけはやめておけ。強い刀を探せ。自分の命を託す刀。戦闘でこの虎徹であったなら、朽ちることはなかったはず。拙者はこの虎徹を信じる。」
もう一度、ゆっくりと見せるように虎徹を左右に振る。
拙者の言葉に武田も尾形も頷いてくれた。
大阪出発が近づいた日、会津小鉄が訪ねてきた。
歳三に呼ばれて、かまちに行くと、土間の隅に片膝ついて待機していた。
「鉄五郎。こんな所じゃなく、中へ入ったらよかろうに」
「いえいえ、ここでかましまへん。急ぎでしたもんで。・・・それでちょっと確認したいと思いまして・・・こちらさんで(大阪で)何かしましたか?」
「いや大阪では警備だけで、京でする詮索や尋問など何もしていないが、・・・どうかしたか?」
「うちの部下が、この近辺で、しきりに張り込む岡っ引きを見ており、そいつらがどうも新選組を見張っているようなもんで、何かなさったのかなと思い、参ったしだいで」
山南さんも言っていたが、やはり奉行所の同心が、こちらを細かく探っているようだ。
「気を付けてください。大阪の同心は荒っぽいですから。突然、捕縛というのもあります」
「武士であってもか?」
「同心は奉行所の上の者の言葉など聞いておまへん。独自に捜査しています」
「・・・・同心というと、去年の相撲取り乱闘に関与している相撲取りびいきの同心でしょう。こちらと口論になって、・・・・それからことあるごとに、捜査している奴がいるようです」
歳三がうなづくように語る。
「そりゃ難儀だ」
「どうすればいいですか?」
「本来なら金ですな。掴ませれば落ち着くもんですが・・・しかし新選組を追っているなら、もう長州の雇われ同心かもしれませんぜ。まあ、そこんところ、一応は奴の動向を探ってみますわ」
そういうと一礼して会津小鉄は去っていた。
横にいる歳三に
「こちらも谷道場に使いを出し、山南さんに奴の動きも監察の対象にするように頼もう」
という。
「火の粉だが、掃うか?」
「いや、まだ大阪では荒立てないほうがいいと思う」
「歳三にまかす」
「わかった」
「・・・歳!」
行きかかった歳三に声をかけた。
不意に昔の呼び方をされて、振り返る歳三。
「歳、思えば茨の道だった。清河に騙されて京に出た。・・・殿内に騙されて貧しい生活を強いられ、芹沢にはひたすら頭を下げて従うしかなく、そしてようやく会津藩の本多様にみとめられ、容保様に認めてもらい、やっと今、将軍様に名前を見知っていただいた。・・・拙者は新選組・近藤勇である」
感情が迸る拙者の気持ちに気がついたようで、歳三がいう。
「館長、これからだぜ。俺たちはもっと出世してやる。館長が言っていた、大名まで行くんだ」
不敵に微笑む歳三。
そう拙者たちは、やっと新選組を認知してもらったばかりだ。これから進むのだ。
1月14日、将軍が京に向けて出発する。こちらも随行して京に戻る。
将軍は船で行く。淀川から船で進むが、川は登りになるため、京に着くのには時間がかかる。こちらは川沿いの街道を進み、警備、警護を行い、進んでいく。
京であるなら、こちらの得意の地。万全を期すため、早駆け隊を作り京に先発し、伏見の停泊所、街道に配置の準備をした。
そして拙者たちは、銃の襲撃を警戒しながら川沿いの道を伴走して進んだ。
京の二条城の警備は諸藩が警護している。拙者たちは搬送警護で、伏見から二条城までしかお供できない。出来ればそのまま本隊として二条城に入りたいが、それは無理だ。街道だけと言え、それでも警護を任されたのだから、名誉なお勤めであった。
行列からはなれ、御所の蛤御門まで行くと、大阪には行かず京に残った総司と永倉が、警護していた位置で、出迎える感じでこちらの隊を引き込み、合流させる。
「お帰りなさい。私たちを置いてきぼりにして、美味しいものを食べてきたんでしょ?」
総司がいつのも調子で絡んでくる。
「隊務が忙して、そんな余裕などない」
「どうだか、早かけで戻った尾形さんが、さっきみんなに新鮮な海鮮料理を腹いっぱい食べたって自慢してましたよ」
本当に尾形はおしゃべりだ。
「将軍警護の首尾どうでした?」
永倉に聞かれる。
「歳三のおかげで、大阪で新撰組のお披露目ができた。これから大阪にも力を入れて、新撰組を大きくする」
そこに最後尾の歳三が到着して、話をする拙者の横に並んでくる。
「留守、警護、ご苦労さん」
歳三は出迎えてる永倉に声をかける。
「いえ、お勤めお疲れ様でした」
永倉が微笑む。歳三も満足そうだ。
改めて拙者たちの心が通じてる実感を得た。
壬生・新選組 近藤の虎徹 東方 文明 Tohbow Fumiaki @tohow
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