第14話 大阪・新選組ー2
「うまくいったな。京では嫌われ者だったが、大阪は好意的なようだ」
「ええ、大阪は商売人です。金があるというだけで信用されますから」
谷道場から戻りながら、宿に着くと、山南さんが笑った。
これで大阪新選組も出来る。確実に大きくなる新選組だ。
大阪に山南さんを残し、新年の警護担当を任せるために歳三を大阪に呼んで、交代で京に戻ることにした。
大阪に谷兄弟3人の三人は増えたが、京の新選組はまだ38人程度。まだ50人には届かない。
これが50人を超えれば、50人扶持である老中と同じ禄位になり、抱えている人数の数字だけではあるが、老中と同じ扱いに見てくれる。
これが大名として見てもらうなら、50人抱えた老中格を10人部下に持ち、500人を抱えることが出来れば、一応は扱いは大名格になる。
しかしこれは雇う人数(何人扶持)による、規模のみの話で、500人を超えれば大名格に匹敵する人数であっても、国や城を持っていなければ大名にはなれない。
まず新選組が藩や大名の扱いを得るためには、少なくても500人を超える強大な組織にならなくてならない。
だが夢ではない。これからの新選組は人数を増やしていいお許しも得てるし、大きくなる大阪の足かがりは出来た。新選組は確実に大きくなろうとしている。
・・・が、しかし!
「やられたぜ。山南さん」
総司が手紙を持って局長室に飛びこんできた。
大坂高麗橋にあった呉服問屋である岩城枡屋に侵入した盗賊と交戦し山南さんが盗賊の不意打ちを食らい、肩口を斬られて負傷したというのだ。
拙者は、谷三十朗と話がまとまると、兄弟の谷万太郎と谷昭衛を伴い、京の屯所に戻り、兄弟に京の新選組を見せ、その活動を打ちわせてしていた。
そこに大阪に残った歳三と山南さんから、早馬に託された手紙がきたのであった。
沖田に読まれる手紙に書かれた内容は、
岩城枡屋に賊が入り、隙をみて手代が逃げ、近くに在籍したと『噂の新選組』に、助けを求めてきたらしい。
そんなに早く『噂』になって『大阪にも新選組が出来た』と広まることはうれしいのだが、まだ体制が整っていない。そのため居合わせた副長二人・歳三と山南さんと、その他、数名の平隊士という少人数で、鎮圧に向かわざるを得なかった。
手代に案内されるまま店に近づくと、なぜか静かな店内。
「賊は、もう逃げたか?」
と、思いつつも、正面と裏口の二手に分かれて、正面から歳三、裏口から山南さんが、店に入る。
歳三たちは音も立てず、中に入り、山南さんも裏木戸をあけて、中庭にはいり、屋内に近づく。
そこで中庭の茂みに隠れていた賊に、山南さんが斬りつけられる。
あらかじめ抜いていた刀で受けてさばいたが、二人目三人目と連続で斬りかかられ、肩口に刃を食らう。
しかしさすがは山南さん、それにはひるまず反撃に出て、相手にも手傷を負わせ退散させることが出来た。
正面から入った歳三は、「逃げろ」と逃げ出す賊を察知。裏庭に進ませる隊士と、外に出て裏から援護に行く隊士を分けて、
「逃げるぞ。追え」
逃げ出す賊を追尾。
「どけー。どけー。」
逃げる賊を追い、御堂筋の夜の街を走り、天満橋で追いついた歳三に滅多切りで(すぐに死んでしまったが)捕獲される。
「副長、大丈夫ですか?」
斬られた山南さんは、命に別状ないが、肩から二の腕迄の深手を受けた。
「やられた。右手が使えない」
裏口の後に続く隊士に支えられて、近くにある鴻池に運ばれ、治療を受けているそうだ。
鴻池は、常駐してくれている山南さんを快くもてなしてくれる。
「山南さん。まあ養生してくだはれ」
鴻池たち商人は新選組に感謝してくれた。
「新選組は、大阪でも守ってくれる組織である」
これによってますます大阪で評判があがるだろう。だが・・・
「これはなんか変だぜ?」
仮の屯所・谷道場に戻らず、鴻池に集まり、歳三達は、話し合う。
「押し入って何も取らず、わざわざ俺たちが呼ばれて、行ったら攻撃された。・・・これって俺達、新選組を狙ってなんじゃねえか」
まだ抜けない多摩なまりで土方が言う。
治療を受けながら合議に参加する山南さんも
「まさに副長の私か土方君を狙ったようにも感じるな」
それは岩城枡屋を襲った武士の遺体を奉行所にて身元を調べたのだが、何も所持してないということが判明したからだ。
いくら各藩の脱藩浪士でも、何かかしら手がかりがあるのだが、何も持っていないとなると、まるで誰だかわからない。
「嫌な感じはある」
攻撃を受けた山南さんは
「下手人は負傷を与えたらすぐに逃げて、唯一斬り伏せた死体から何もない」
と何かを感じる部分があるようだ。
「あまりの手際の良さ。もしかしたら新選組を狙った犯行の可能性ありか」
と歳三も考える。
「大阪も焦げ臭くなりだしましたな」
意外にも谷兄弟が、驚いている。
盗賊は出るが、そんな歯向かう盗賊集団は、大阪でもあまりないことなのだそうだ。
「刀が折れるほどのケガを負わされ、今は鴻池で養生しているそうです」
手紙を読む総司。
「どうする?大阪強化?負傷した山南さんの代わりに誰かを送るか?」
それを聞いて永倉がこちらを向く。
「原田、島田は土地勘があるからすぐ使えるぞ」
「いや。このままでいいと山南さんからは、通達が添えられています」
歳三と山南さんと残った谷三十郎殿の協議の結果、京の新選組が来たらうまくいかない。大阪新選組は情報収集の監察部隊の新選組にした方がいいと考えているようだ。
「こりゃもう一度、『大阪・新選組』を考えたほうがよいのではないか?」
山南さんと歳三が考えたことは、
「この大阪には、長州人がごまんといる。京の恨みを大阪で晴らそうとしている奴らの絶好の獲物になってしうまうのはないか?」
「権力嫌いの大阪人は、鳴り物入りで新選組が来たら、邪魔をする奴も現れるだろう」
「表立って、新選組の看板を掲げると、それを狙って潰しにかかる」
と読んだのだ。
「なら戦場は京として、大阪は大きく動かず、戦うというより、情報収集を主にして、個々の暗殺で動いた方が人目に付かず行動がしやすいのではないかと考える」
京の新選組から何人かは大阪に行きにするが、それは隠して、残りは大阪で募集する。
他の国から来て、大阪言葉を使わない奴らは、民衆の敵になりかねないため、京、大阪、奈良、そのあたりから現地、募集の人間で構成することにしたほうがいいのだろう。
故に谷道場は『屯所』にせずに、道場として開放して、時と場合に応じて、京からの連絡や京からの隊士の待機場所として使う。ということだ。
まあこれも大阪の権力嫌いの中で新選組が活動するのに一番のやり方であると、手紙には記されていた。
「だが新選組を大きくするのだ。監察では困る」
と拙者は考えていたのだが、
「偶然かも知れないが、このところ、新選組をつけ狙っている輩がいるとい噂がある」
と永倉が言いだした。
「脱藩した浪士が、長州などの大きな諸藩に認められるには、手柄が欲しい。それには目障りな新選組を血祭りにすれば、良い宣伝になるというものだ」
と原田もいいだす。
「暗殺は勿論、油断している非番の隊士を不意打ちして斬っても、名が挙がる」
平助もそういいながら、こちらを見る。
「今、新選組は狙われているのかも知れない」
現に大阪の奉行所の一つに、目をつけられ谷道場は見張られている。これは相撲取りを斬った時に揉めた奉行所の同心が、まだ付きまとっているのだ。
「なかなか厄介だな。大阪という町は」
どうも江戸の人間には、計り知れない町である。
今は大阪新選組は、公表しない方が得策と思える。
「とにかく、会津様には報告せずにはなるまい」
拙者は早々に着替え、会津藩の京都守護職のある金戒光明寺に出向く。
『新選組、大阪で狙われる』これは不名誉なことではあるが、やはり新選組が京都守護職の中の会津藩の預かりであるから、たとえ恥ずかしくとも、大阪の事件は会津藩に報告しなくてはならない。
光明寺に着くと、「大阪で大立ち回り」これはもう知れわたっていた。
まずいことだが負傷者も出ていることまで知られている。
だがこれを会津藩では、とても好意的に取られており、この噂が知れ渡るとということは「新選組の名前」が人々の話題に上がるほど認知されてきた証拠でもあるらしいと、会津藩の年寄・野村様が褒めてくださった。
「京から長州人を排除したが、大阪やその他の国では、いまだに暗躍している。京も安心せずに、長州人を味方する者たちが騒乱を巻き起こそうとしているので、そんな不逞の輩を取り締まる強化もしなければならない」
会津京都守護職では、その考えを持っており、それを守護職の紀伊、水戸などの諸藩や、幕府の見回り組なども充実、強化すべしと通達を回してくださった。
そして会津藩としては、『狙われている』とか『負傷者が出た』などを不名誉にせず、賛美の方向に話をすすめ、『大阪の功績』として、褒美を授けることに決定した。
そのため兼ねてから、年寄の野村様が言っていた会津藩の抱えの刀匠『和泉守兼定』が、山南さんと歳三に授けられることになったのだった。
何が幸いするかわからない。
大阪でも人気が出始めた新選組が、谷三十郎を通じて各道場に隊士を募集かけると、若干だが大阪の『隠れ新選組』の募集に参加して、大阪の人数が増えた。
総数で新撰組が60人なったが、歳三はサバを読み「100人」になったと公表した。
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