第2話 不意せぬ独立戦争

 ヘレニジア暦502年5月、ヘレニジア王国はダーキア地方でのウラキア侯爵家の叛意を察知し、全力でこれを鎮圧する事を決定。従来の市民からの志願兵のみならず、奴隷からも市民階級の付与と条件に徴兵し、短期間のうちに12万の軍団を編制。9月にダーキア地方に攻め込んだのである。


 無論、宮川はこの動きを察知していたし、対策も行っていた。まずダーキア地方の中心地であるウラキア市には、王国軍や伯爵家私兵部隊に武器を供給する工房があったのだが、奴隷や解放奴隷、女子供に至るまで簡単なテストで才能を見出された者を徴用し、工房そのものの規模も拡大。自身の経験を基に作成したマニュアルで効率的な徴兵者育成を行うと、8月までに1万もの兵士を揃えたのである。


 武器と戦術についても改良を行っていた。アナトリア帝国との長きにわたる戦争は良質な武器の量産体制の下地となっており、ダーキア地方諸都市の工房は高い冶金技術を持っていた。召喚者のもたらした知識や技術がそれの発展を支えた事は言うまでもない。


 そして宮川は召喚直後から、新たな武器の研究・開発を行っていた。ウラキア伯爵家に仕える魔法使いたちは、従来の魔法では難しい事にも解決の糸口を見出す事の出来る召喚者に対する理解が深く、新兵器の研究と開発に協力。日本国からの正式な技術供与に資料提供もあって、驚くべき短期間のうちに、青銅製の大砲6門と1000丁の火縄銃を用意する事に成功したのである。


 そして戦闘に至るわけだが、ダーキア軍は真正面からの戦闘は回避し、街道に沿う森林からの奇襲やゲリラ戦、後方へ迂回しての補給線への攻撃など、ひたすらに嫌がらせに徹した。1万も用意出来たとはいえ、相手は12万である。普段の戦い方で対抗できる様な相手ではない事を理解した上での奇策の連続であった。


 新兵器たる大砲と銃も、戦中に改良が繰り返された。火縄銃はばねの瞬発力を用いた瞬発式火縄銃に改良され、同時に発火機構に漢字で『発』と『火』の文字を彫った術式を組み込み、接触時に『発火』の字となる事で火薬に火を起こす魔導式が開発。銃身や銃弾も改良されたミニエータイプのライフル銃も登場し、これによって少数の歩兵でも多数の敵兵に対抗できる様になったのである。


 そうして少数の軍隊で多数の敵を食い止める戦いが11月まで続けられたが、それはダーキア地方とウラキア伯爵家が日本国政府や、視察に訪れたアメリカ合衆国の大使より信頼を得るに十分たる成果であった。そして数週間後、ダーキア軍と入れ替わる様に陸上自衛隊3個師団とアメリカ海兵隊1個師団が戦場に現れる事となったのである。


 その規模と戦い方は驚嘆の一言であったろう。100両以上の主力戦車が街道を爆走し、榴弾砲の連続砲撃は数万の歩兵を瞬時に吹き飛ばした。この機に乗じてアナトリア帝国が侵攻してきたが、彼らの誇る騎馬戦車は対戦車ヘリコプターの猛烈な攻撃によって吹き飛ばされ、僅か数日で10万もの将兵を失う結果となった。


 その結果、ダーキア地方における日本の影響力は確固たるものとなり、503年7月に『七夕作戦』が発動。陸上自衛隊第一空挺団と第7師団は首都アティナを強襲し、これを占領。戦争は日本の大勝に終わったのである。


 その後、日本政府はヘレニジア王国政府に対してささやかな賠償と、先代国王及び宰相の身柄引き渡しによる謝罪を求め、これ以上の混乱による国力衰退を危ぶんだ政府は受諾。『ダーキア戦争』は幕を閉じた。そしてそれを機に、ダーキア地方はウラキア伯爵家を王家とするダーキア王国として独立し、発展の道を歩み始めたのである。

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