第13話 聖フランシス教団

「ご苦労さまです。……ようこそおいでくださいました。私が『聖フランシス教団』大司教のクリスティーナです」


 恭しくお辞儀をする女性を見て、『魔女狩り』の面々はざわつく。彼女は二十代半ばほどの見た目であり、まだ若い女性と言ってもいい年齢だ。しかも、絶世の美女と呼んでも過言ではない程の美しさを持っている。……にも関わらず、何故だろう。得体の知れない気味の悪さを感じるのは。


「貴方方が求めているのは真実でしょうか? それとも嘘? はたまたこの身体でしょうか?」


 そう言って彼女は自分の豊満な胸を持ち上げ、妖艶に微笑んでみせた。


「うっ……」


 思わず顔を赤らめる部下たちを一喝するように、長であるベネディクトは声を荒げる。


「クリスティーナ大司教! 今は言葉遊びなどしている暇は無い! 調査をさせてもらうぞ!」

「あらあら、強引な方は嫌いじゃありませんよ? でも、人にものを頼むのはもう少し礼儀というのが必要なのではなくて?」


 クリスティーナはクスリと笑って首を傾げた。その姿はとても愛らしく、普通の男なら見惚れてしまうような仕草ではあるのだが、何故か彼女の前に立つと肌が粟立つ感覚に陥る。


「……どうか我々の願いを聞き入れて頂けないだろうか? クリスティーナ大司教」


 それでも彼は臆さずに頭を下げて頼み込んだ。するとクリスティーナは満足げに目を細め、笑みを深めてから言った。


「えぇ、構いませんわ。私も退屈していたところですし。ただし、痛くもない腹を探られるのは気分がよろしくないですわ。──なので、取引をいたしましょう」

「……何を要求するつもりか?」

「『あなた方は何も見なかった。聖フランシス教団は人体実験など行っていないし、魔女を生み出しているはずもない』と、帰って報告なさい」

「……っ!」


 あまりに突拍子のない条件を突きつけられ、一瞬言葉を失うベネディクト。


「何を考えている?」

「私は別に、ただ平和的な話し合いを求めているだけですわ。ここでのことが王家の耳に入ると、双方にとって不利益になりますもの」


 そう言いながらも、彼女が口元に浮かべている笑みはまるで嘲笑っているようにしか見えない。


「ふざけるなっ! お前達の悪評はこの耳でしっかりと聞いている! ここで退くわけにはいかない!」

「……ふぅん?……残念です。まあ仕方がないかしら。力ずくで追い返すことにしますね」


 クリスティーナは不愉快だと言わんばかりに冷たい目つきになった後、パンパンと手を叩いた。


「ステファニー。出番ですよ」

「はい」


 いつの間にか、クリスティーナの背後に彼女と似たような容姿の女騎士が立っていた。顔には金属製の仮面をつけ、腰には長剣をさしている。

 しかし、『魔女狩り』の面々はその容姿に見覚えがあった。


「まさか、あなたは……!」

「そう、もはや私たち『聖フランシス教団』と王国は切っても切れない関係。色んなところに協力者がいるんですよ? ──例えば、王宮の精鋭部隊『七聖剣セブンスナイツ』の部隊長……とか」

「ッ!?」


 ベネディクトの顔色がサッと青ざめた。『聖フランシス教団』に不穏な動きがあるという報告を受けた時に、泳がせずにクリスティーナを拘束していればよかったと後悔しても遅い。今さら手遅れだ。いくら『魔女狩り』でも、『七聖剣』第三席──ステファニー・シャントゥールには敵わない。


「ふふ、観念したようですね? 貴方達は私の手のひらの上で転がされていたのですよ? 私はずっと、彼女を通じて貴方達を見張っていたのですから」


 クリスティーナは勝ち誇った表情を浮かべながら、指先でそっと彼の頬に触れた。そして囁くようにして問いかけた。


「ねえ、どうするの? 『はい』と言ってくれるかしら?」

「ぐ……っ! それでも我々は折れる訳にはいかん!我らの正義の為に!!」


 その言葉に、クリスティーナは少し驚いた顔をした後、フゥと溜息を吐いて首を横に振った。


「やれやれ……やはり野蛮人ですねぇ……。ステファニー、やっていですよ」

「仰せのままに。──邪魔者を排除します」


 クリスティーナの指示に、仮面の騎士は無言でこくりと首肯して一歩前に踏み出す。同時に彼女の身体から眩い光が溢れ出し、瞬く間に光輝く美しい翼が生え、彼女の身長程はある巨大な槍を手に取った。

 そして次の瞬間、目にも留まらぬ速度で肉薄され、部下の一人が盾を構えて防ごうとするも、あっけなく吹き飛ばされてしまった。

 他の部下たちは動揺し、次々と応戦しようとするも、次々に彼女に斬り伏せられていく。中には反撃を試みる者もいたが、無駄だった。何故なら彼女は、人間離れした圧倒的な身体能力と卓越した魔法スキルを持っている七聖剣なのだから。……一方的な蹂躙劇が繰り広げられ、気がつけば部下たちは一人残らず倒されてしまい、呆然とするベネディクトのみが取り残された。


「あらあら。流石はステファニーですね。お見事お見事」

「ありがとうございます。大司教様のご期待に応えられて何よりです」


 クリスティーナはパチパチと拍手をして称賛を送り、ステファニーは恭しく頭を下げた。


「くっ……」

「さてと。これで貴方だけが残りましたね? では取引を続けましょうか?」

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