第14話 戦闘訓練でも容赦なく本気を出してくる七聖剣さん

 ***



 ルナの屋敷に仮住まいしている俺とクロエ。ルナは、『月下の集い』を預かることになった俺たちに早速戦闘訓練を施してくれた。


「ぐはぁっ……!」


 魔剣『リンドヴルム』を構えた俺は、ルナが手にした木刀に腹を打たれて地面に転がった。リジェネレーションのおかげでHPはすぐに回復するとはいえ、こうも力の差を見せつけられると精神的に落ち込んでしまう。

 ちなみに今日の訓練内容は、実戦形式の模擬試合だ。相手は勿論ルナ。俺がリンドヴルムの力を開放して全力を出しているのに、軽くあしらわれてしまう始末である。


「大丈夫ですか、リックさん?」

「あ、ああ。問題ないですよ」


 ルナ心配をかけないように立ち上がりつつ答える。だが、この幼女ロリ、見た目によらずめちゃくちゃ強い。まず、風魔法を操った波状攻撃が速すぎて全く目で追えないのだ。さらに、剣技の腕前は一流。正直言って勝てるビジョンが全く見えない。


「習うより慣れろです。幸い、リックさんとクロエさんは回復スキルがあるので、多少荒療治ができます」

「でも、さすがに底辺冒険者相手に七聖剣が大人気なくないですか?」


 ルナの実力はよくわかったのだが、それでも納得がいかないことがある。それは、俺に対しての遠慮のなさというか、明らかに手加減をしていない点だ。いくらリジェネレーション怪我しても元に戻るとは言え、仮にも俺は年上なのに容赦がない。こいつ、ドSなんじゃないだろうか?


「リッくんがんばれ〜! そんなちっちゃい子に負けてて恥ずかしくないの〜?」

「うっさい黙れ!」


 クロエはニヤニヤと笑いながらはやし立ててくる。よほど俺がボコボコにされているのが楽しいらしい。こいつも大概ドSだ。


「それじゃあ、次行ってみましょう」

「……はい」


 ルナの合図と共に、再び戦いが始まった。木刀を持って加速したルナが俺の正面から迫り来る。

 彼女の剣術には、相手を翻弄する為の動きがあるようだ。例えば、左回りに見せかけて右側から回り込んできたり、横薙ぎと見せかけて突きを放ってきたり。緑のサイドテールを翻しながらフェイントをかけてくる。

 しかし、それが分かったところで対処のしようがない。一つ一つの動作が速すぎるので、考えている間に対応が遅れてしまうのだ。結局のところ、彼女の剣技に翻弄され、防御すらままならない状態のまま一方的に打ち込まれてしまう。


「まったく情けないな〜、リッくんは〜!」


 クロエのやつ完全に楽しんでやがるな……。あいつの性格の悪さは、ある意味『聖フランシス教団』の連中もタチが悪いと思う。


「ぜぇ……ぜぇ……う、うるせぇな……」


 息を切らしながら、なんとか反論するも声に力が出ない。HP的には余裕なのだが、精神的に結構キツいんだよ……。だってさ? 相手が女の子なんだもん。こんなちびっ子に、いいように転がされて、悔しくないはずがない。そりゃ心がポッキリ折れそうになるわ。……でも。


「はーい、それじゃあ今度はクロエさん。やってみましょうか」

「えっ……」


 ルナがニコニコしながらクロエを指名するものだから、彼女はそのまま固まってしまった。ざまあみろ。


「わたしの攻撃を読めるようになれば、他の誰の攻撃でも見切れるようになりますよ?」

「うぅ……はぁい」

「がんばれー」

「うぉぉ、やってやる〜! リッくんとは格が違うってところを見せてやるんだから!」

「死ぬなよー」


 俺がリンドヴルムを手渡すと、気合十分でルナと対峙した彼女だったが、やはり一瞬で斬り伏せられていた。その後何度か挑戦したけどダメだったみたいで、俺と同じようにボコボコにされてついに涙目になってしまった。うん、可愛いぞこの子。


「うぐぐぐぐぐぐぐぐぐ」


 クロエも地面を転がり回って悶絶していた。なんか面白いな。すると、クロエは唐突に立ち上がり


「もういっかいっ!!」


 そう言って再度戦いを挑む。


「いいでしょう。ではわたしも全力を出しますね?」


 ルナもニッコリと笑って木刀を構える。そして次の瞬間──


「『ウィンド・ブラスト』!」


 吹き荒れる突風。

 一瞬何が起こったのか分からなかった。ルナの姿が消えたと思ったら、神速の突きを食らったクロエの身体が遥か後方に吹き飛ばされていた。クロエは屋敷の壁面に叩きつけられており、ずるりと地面に落ちていった。おいマジかよこの子。さすがに容赦なさすぎるだろ!


「クロエ!? だ、大丈夫か?」


 慌てて駆け寄ると、クロエのHPバーは真っ赤に染まりながらも僅かに残っていた。クリティカル判定が出たら危うくクロエが即死していたと思うとゾッとする。

 クロエのステータスが俺よりも高いからって……ルナの奴、鬼か?


「う、うぅ……息ができない……」


 クロエが俺に向かって手を伸ばす。その手を握ってやると、彼女のユニークスキル『ライフドレイン』によって、俺のHPを吸収してクロエは瞬く間に回復した。俺のHPも常にリジェネレーションによって回復しているので、実質タダで回復できていることになる。しかし、これは俺とクロエだからできることであり、普通の冒険者だと回復するためには回復魔法を使うかクソ不味いポーションを飲むか、自然回復を待つしかないだろう。


「あ、ありがとう……死ぬかと思った……」

「ルナの奴やりすぎだろ……」


 クロエの背中をさすりながら悪態をつく。だが、彼女は首を横に振った。


「違うの、リッくん。ルナさんはあれでも手加減してた。私が死なないギリギリの威力に技を調整していたと思う」

「──それが本当ならとんでもない化け物だな。七聖剣ってやつらは」

「うん、少なくとも私たちとは比べ物にならないくらい強いのは確かだよ。なんてったって、王国最強クラスの騎士だもの」

「……聖フランシス教団ってのはそんなルナでも敵わないようなやつらなんだよな? それを、俺たちは相手にしなきゃいけないと」

「……正直、今は勝てるビジョンが全く見えない。でも、私はリッくんについていくから」

「クロエ……」


 俺はなんだか愛おしくなって、彼女の頭を優しく撫でてやった。すると彼女は真っ赤になった。


「はぁ? ちょっといきなり何すんの! やめてよねそういうの! リッくんが誰彼構わずそういうことするの知ってるんだから!」

「いや、さすがに誰彼構わずはやらないけど……」

「でも、ルナさんにはやってた!」


 クロエは顔を赤くしながらプンスカ怒っている。どうやら、俺がルナを撫でた事が気に入らないらしい。他人が撫でられるのも自分が撫でられるのも嫌とはこれはいかに? クロエらしいっちゃらしいが……。

 その後しばらくグチグチと文句を言い続けていたのだが、「はいはいごめんなさい」と適当にあしらうとさらにヒートアップしてしまい、最終的にねられたのは言うまでもない。子供かこいつ……。

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