第12話 お前は何がしたいんだ??
ため息をつくクロエ。どういう意味だろうと思っていると、彼女が急に顔を近づけてきたので反射的にかわした。すると今度は鋭い蹴りを放ってくる始末。避けきれなかったので手でガード。
「お前は何がしたいんだ……?」
小声で抗議するも、彼女は無表情。……こいつ、絶対ドSだよな。
「お二人は仲がいいんですね」
俺達のやり取りを見て、ルナがクスリと笑う。クロエは一瞬きょとんとした顔を浮かべたが、「はぁ? 誰がこんなのと……」とだけ答えた。もしかしたらクロエは照れているのかもしれないが、それでは肯定したようなものだと思う。
「さて、これからよろしくお願いしますね、二人とも」
そうしてルナとの話は終わり、三人で路地裏を出た後、その足でルナの屋敷に帰ることにした。王都の中は比較的安全とはいえ、俺とクロエは聖フランシス教団や魔女狩りから追われている身だ。なるべく人の多い場所を避けて移動していたのだが、途中で見回りをしている兵士らしき人物とすれ違った時は肝が冷えた。幸いにも気付かれずに済んだのだが。
「あの、もう一つだけわがままをきいていただけますか?」
しばらくした後にルナがそう言ったので、どうぞと促すと。彼女は少し恥ずかしそうな表情をしながら、
「お二人には、『月下の集い』のリーダーになっていただきたいのです」
「……えっ?」
「私たちが、ですか……?」
思わず聞き返してしまう。
リーダー。つまり、俺達『月下の集い』のボスになるということか。正直、俺は誰かを引っ張っていくタイプではないと思うし、クロエもリーダーシップがあるタイプではないと思う。それに、俺たちは先程参加を表明したばかりの新入りだ。そんな人間がリーダーをやってもいいものなのだろうか?
「はい。ぜひ」
俺達が困惑していることに気づいているのかいないのか、ルナは真面目な顔でそう答える。
「王城の中にも聖フランシス教団に好意的な勢力がかなりいるので、わたしは表立って行動できません。すでに月下の集いとわたしの関係を疑っている貴族や騎士もいるとか。……なので、月下の集いには明確なリーダーがいない状態です」
ルナの説明に納得する。要するに、聖フランシス教団に対抗できるだけの組織を作りたいから、まずはリーダーが必要だということだ。確かにこの国を内側から変えるためには、大きな力が必要になる。それは分かるのだが。
「でも、私達に務まるでしょうか?」
クロエが不安げに呟く。
「お二人は珍しいユニークスキルを持っています。そして教団の悪事を暴こうという強い意志をお持ちです。だから大丈夫ですよ」
そう言われると断れないよなあ。
「分かりました。じゃあその役目引き受けますよ」
俺の言葉にクロエも賛同してくれる。
「あ、ありがとうございますっ!」
「まあ、ルナさんには屋敷に泊めてもらったり、ユニークスキルについて調べてもらったり、色々お世話になってるので……」
「うんうん。私からも何かお礼をしないといけませんよね」
俺に続いてクロエも口を開く。
「いえ、そんなこと! こちらこそ、危険なことをお任せしてしまい申し訳ありません……でも他に任せられる相手がいないのです」
深々と頭を下げるルナ。本当に感謝しているのが伝わってくる。だからこちらも真摯な態度を取らないといけない気がする。……うん。決めた。
俺は彼女の頭に手を乗せて優しく撫でた。
「なっ……」
「え?」
ルナとクロエが驚いた様子で固まる。……あれ? なんかマズかったかな? 女の子の扱い方ってこれで合ってると思ってたんだけど……。
するとルナは顔を赤く染めながら上目遣いで俺を見つめてきた。
「そ、そういうことは好きな女性にしてください……。わ、わたしは子供じゃないんですよ……!?」
……あっ、ヤバ。これはセクハラだったかも。慌てて手をどけて謝った。
「す、すいません。つい」
「リッくんはこういう人なんだね。なるほどなるほどぉ、よくわかったよ」
あの、クロエさん? にこにこしてるけど目のハイライトが消えているんですけど? 怖すぎるからやめてもらっていいですか?
「こ、こほんっ! とにかくっ、よろしくお願いしますね。……これから『月下の集い』として頑張りましょうっ」
ルナが微妙な空気を払拭しようと咳払いをして宣言した。……やっぱり彼女こそがリーダー向きの性格だと思うんだけど……。
***
王都から馬で丸一日。人里離れた山の中に『聖フランシス教団』の本拠地はある。巨大な協会のような建物を中心にして広がるのは、まさに別世界と呼ぶに相応しい場所であった。
魔女狩りの長であるベネディクト・ケーニッヒベルクは、十人ほどの部下を伴って協会の門の前に立ち、中に向かって大声で呼びかけた。
「『聖フランシス教団』が非道な人体実験を行い、魔女を生み出しているという情報を手に入れたので、調査がしたい! 大司教殿はおられるか!」
しかししばらく待っても返事がない。もう一度同じ内容を口にするも、やはり何の反応もなかった。
痺れを切らした部下の一人が、苛立った表情で剣を抜き、「こうなったら強行突破だ」と門に体当たりをした。だが、鉄製の門はビクともしない。それどころか衝撃音を聞きつけたのか、わらわらと教団の修道女たちが集まってきたではないか。
「ちっ……なんだ貴様らは! 我々が何者か分かっていてそのような態度を取っているのか?」
部下たちは剣を構えて怒鳴りつけるが、修道女たちは全く怯む様子を見せず、無表情で杖を構えた。その目は虚ろで光がなく、感情が読み取れない不気味な瞳をしていた。
「まさか……全員『魅了』をかけられてる?」
「いや、洗脳をされているだけかもしれないぞ」
一人の呟きに別の者が反応する。確かにこの状態は普通ではない。『魔女狩り』達が動揺していると、門がひとりでに開いて、中から純白の法衣に身を包んだ美しい金髪の女性が姿を現した。
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