絵里の話4

大学を休んで部屋に引きこもっていると、

みんなから連絡が来ていた。

もちろん慎吾からもだ。

だけど返す気にはなれずそのままにした。


高校からの友人で裕太とも仲の良い

紗枝からも連絡が来た。

裕太との事を話したくて紗枝には連絡を返した。


大学が終わった後に来てくれて、

今までので事を包み隠さず話した。

呆れてはいたし怒っているようにもみえた。

それでも、黙って聞いてくれた。

それだけでもありがたかった。

私が悪い事を誰かに知ってもらい

罰を与えて欲しかったんだと思う。

裕太に話せない分

裕太に怒って貰えない分

誰かに叱ってもらいたかった。

甘えたかった。


だけど紗枝は、何も言わなかった。

怒る事もなかった。

それでも

裕太と、どうにか話せないかを

一緒に考えてくれた。


今は、それだけでもありがたい事なんだと思った。

だけど、私の罪の意識はさらに深くなっていった。

紗枝まで巻き込んでしまったから。

紗枝から裕太に連絡して話す機会を作ると

言ってくれたのだが、

これ以上は迷惑をかけられないと断った。


その日は、紗枝が泊まってくれたので

なんとか眠る事が出来た。


次の日の大学もこんな顔ではいけないと思い

休む事にしたが

来週からはちゃんと行くと紗枝に約束した。



それからも紗枝は、頻繁に連絡をくれ

元気付けてくれる。

本当にこんな私の為に申し訳ない。

ありがたい気持ちもあるが

いつまでも裕太への気持ちを引き摺って

気持ちが上がってない自分なんかの為にと

申し訳ない気持ちが勝ってしまう。



大学に行き始めてからは、

慎吾も心配そうに話かけてくる。

正直話したくないが、

慎吾が悪いわけではない。

全て私がはっきりとした態度を

取らなかった事が悪いのだ。


かといって

今までのようには接することもできずに

そっけない態度になってしまう。

何も変わらない自分がどんどん嫌になる。


元気に振る舞っているつもりでも

身体は正直だった。

何か食べても吐いてしまう。

しっかり眠ることもできない

夢でもうなされるようになってしまった。

日に日に弱っていく私は、

みんなに気づかれないように

なんとかいつも通りに振る舞った。


そんな私をみて慎吾の顔も日々

暗くなっていく。


流石に紗枝も

そんな私を見兼ねて

裕太にお願いして話しをする機会を作ってくれた。

本当に申し訳ない。


だが、

せっかくもらった最後のチャンスなので

裕太に今までの事をちゃんと全て話して

それから謝って私の想いを伝えようと思った。




当日は、紗枝に部屋で話す事になったので

私は、紗枝と裕太が来るのを緊張しながら待った。


紗枝が裕太を連れて部屋に戻って来た。

私は頭を下げて、まず浮気のことを謝った。

裕太の顔を見る事が怖くて

頭を上げる事が出来ずに

そのまま頭を下げ続けた。


紗枝に声をかけられ顔を上げて

裕太の顔を見た瞬間

もう完全に遅いんだとはっきりわかった。

謝っても何をしても、

裕太は、私に興味がない。

完全に無関心なんだって。


それでも謝らなくては、

今までので事を全て話した。

裕太は最後までちゃんと聞いてくれた。

そしてはっきりと

私に気持ちがない事を告げてくれた。


辛くて泣いてしまいそうだったが、

話す事が出来て、

少しだけでも割り切ることが出来た。

それだけでも今までに比べたら全然良かった。

心なしかスッキリしている気もする。


きっと裕太とは、

もう会う事は出来ないだろう。

裕太の後ろ姿をしっかりと目に焼き付けた。

裕太がいなくなった部屋で

私は我慢しきれず泣いてしまった。

紗枝は、

そんな私の背中を優しく摩ってくれた。


紗枝には、本当に感謝しか無い。

裕太も最後まで話を聞いてくれた。

それだけでもありがたかった。

私もいい加減、前を向かないといけない。


裕太に言われた幸せを

私なりの幸せの形を

しっかり見つけようと思った。



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