絵里の話3

裕太からのメッセージを見て

真っ青になっている私に

慎吾は声を掛けてきたが

今は、もうそれどころではない。


急いで慎吾に帰ってと伝える。

慎吾は、帰ることに渋っていたが

彼氏にバレたかもしれないと言うと

今は、とりあえず帰ると

渋々帰っていった。



その後すぐ

私は急いで裕太に連絡を入れた。

電話も掛け、メッセージも入れた。


最初は、

バレていないかもしれないと思い

誤魔化そうとして連絡を入れた。

我ながら浅はかだったと思う。




しかし返信はなく、

私は、いても経ってもいられず

裕太のアパートに向かった。




裕太の部屋の電気はついていた。

だが、

何度呼んでも出てくれず、返事もない。


裕太が出てきてくれるまで、

何時間か粘ったが、

裕太が出てくることも

返事を返してくれることもなかった。



私は、手遅れだと思った。

やっぱり見られていたんだと思った。



そのまま諦めて

自分の部屋に帰ることにした。



眠れない、

裕太に嫌われた。

裕太のそばにいられなくなる。

裕太がいなくなってしまう恐怖に、

自分の犯した罪に、

押しつぶされそうになりながら

ただただ、震えていた。


私は結局、眠ることもできず朝を迎えた。


さすが、大学に行く気のもなれず

その日は休んでしまった。


朝を迎えたことで

裕太も、今なら返してくれるかもと思い

また連絡を入れたが、

やはり返ってこない。

話だけでも聞いてほしくて、

連絡を送り続けた。

話ができれば

裕太に許してもらえるかもしれない。

今の私には、

その限りなく小さな可能性に

期待することしかできなかった。


不安と罪悪感、

淡い期待、

そんなことを思っている

自分に対しての嫌悪感、

いろんな感情が混ざり合って

頭の中がおかしくなりそうだった。


そのまま夜を迎え、

ようやく裕太からの返信があった。



「気にしなくていいよ。

 せめて別れてからにして欲しかったけど

 お幸せに。」



それだけだった。

たったそれだけの言葉しかなかった。


連絡が返ってきたことに焦って

すぐに電話を掛けたし

メッセージを送ったが、

もう返ってくることはなかった。



時間が経ち、

考えれば考えるほど返ってくるわけがないと

わかってしまう。

考えたくなくても結果が全てだ。


裕太に許してもらえるなんて甘かった。

きっと許すとかそういう話ではないんだ。

裕太の中では、もう終わった話なんだ。


付き合ってから三年くらい経つ。

裕太がどんな考え方なのかは、

よくわかっている。

よくわかっているのはずなのに

どうしてこんなことをしてしまったんだろ。


裕太はきっと、割り切ってしまったんだ。

私のことを過去にしてしまったんだ。


話もさせてもらえない。

会うなんてもっての外だ。

裕太は、完全に私に好意を抱いていない。

興味すらない。


何に期待していたんだろう。

自業自得としか言えないこの状況に

私は、

なにを勝手なことばかり考えていたんだろう。


裕太は、何も悪くない。

全て私が勝手にやってしまったこと。

嫌われるのなんて当たり前じゃないか。

嫌われるだけならよかったかもしれない。

私に対して関心がないのだ。


この時初めて、自分のしていたことの

本当の意味を知ることになった。


裕太を傷つけ、

辛い思いをさせていたなんて

生優しい考えだった。

因果応報。

そんな言葉の方がしっくりくる。


自分で自分を傷つけ、

どうしようもない状況に追い込んだ。

裕太に悪いなんて言っている場合ではなかった。


もう、遅かった。

どうしようもないくらいに遅すぎた。



最初にキスしてしまった時点で

裕太に伝えていれば

嫌われるくらいですんだかな?

それとも、

同じ大学に元彼がいることを

最初から言っていればなにかかわっていたかな?


全て、今更なんだ。


終わってしまったのだ。


思い出の上書きも、

裕太にとっては嫌な上書きになってしまった。

そして、これからそれを上書きできるのは、

私じゃない誰か違う人。

その事実に押しつぶされてしまった。


今更、

そんな大切なことに気付いても遅かった。

全てが遅すぎた。


後悔しても後悔しても、

過去には戻れない。


しばらく呆然とした後に


「ごめんなさい」


その言葉だけを送信した。



そのままいつの間にか寝ていた私は、

どうしても裕太に、直接謝りたくて

連絡を入れようとしたが

もう繋がらなかった。


きっと、

ブロックされたのだろう。

裕太との繋がりを完全に断たれてしまった。


まだ、涙が出るんだと思うくらいに泣いた。

この日も、

大学には行けずに部屋に引きこもっていたのだ。


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