3
影山が
母親と娘の両方から好意を寄せられ、行為を迫られていた影山。
もう何もかもどうでもいい。
女なんてどうでもいいと、思っている。
大学生になって、もうすぐ一年。
次のバイトをどうしようかと考えていた頃、ネット上で知り合った友人。
実際に会ったことはなく、性別も年齢も知らない。
ただ、匿名でも自分の話を聞いてくれる存在がいるというのは、彼にとって心の支えにはなっている。
ふと、その友人の一人に、自分の身に起きたことを話した。
名前は出していないが、とんでもないクソ女が、思いの外多く存在しているという現実を嘆いて……
するとその友人から、一度実際に会ってみないかと話を持ちかけられる。
影山の話に興味があるようで、
ちょうど時間が空いていた影山は、その友人に会うため指定されたカフェで一人待っていた。
影山の座っていた席の斜め前の席に、同じように誰かと待ち合わせをしている派手なピンク色の髪をした女が座っている。
紫のパステルカラーのパーカーを着た、上から下まで派手な女だった。
いやでも視界に入る。
「あー来たぁ!
「ごめんねぇ、先輩、ちょっと前の仕事が押しちゃってさぁ」
その派手な女が待ち合わせしていた女が、
影山は見た瞬間にわかった。
声も話し方も、卒業式の前日に最後に見たあの下品な女そのもの。
わかった瞬間、鳥肌が立つ。
「前の仕事って何? バイト?」
「駅前に新しくできたカフェで働いてるんだ。あの仕事毎月ってわけじゃないし、高校も辞めちゃったから一応は働いた方がいいかなーって……」
「そうだよねぇ、私もこの前呼ばれてからしばらく連絡きてないし。やっぱ、一回できちゃうとそういうもの?」
「ああ、何気にうちらの体気遣ってくれてるんだよ。先輩だってついこの前堕したばっかでしょ?」
「そーなんだ。いやーまじ焦ったよ。私に子供とか、どうしようかと思ったけど……先生に相談したら今すぐ産婦人科行けってさ。助かったわ、マジであの先生何者なんだって感じ」
「ねー、すごいよねぇ。あの先生の言う通りにしてれば、なんも問題なく過ごせるし」
会話の内容から、この派手な女が、
それに、
同じ家に住んでいても、ほとんど顔を合わすことがなくなった自分の父親は、また母を裏切ったのだということも同時に知る。
「そんでこの前さぁ、ついに元彼のお父さんとやったわ」
「えー何それ? まじで?」
「珍しく先生が仕事入ったみたいで途中でいなくなってさ、で、うち一人余っちゃったからおいでーって。一回会ってんのにさ、全然気づいてないんだよね。あのおっさんたちの中じゃ一番イケメンだけど、やっぱ歳なんだわ。記憶力なさすぎて草」
「ああ、どっかの社長だっけ? 私も一回だけあるわ。先生が急に来れなくなってさ……にしても、元彼の父親とかマジうけるんだけど」
その後、影山は自分がどうしたのか覚えていない。
気がついたら影山は
どこで見つけてきたのか、右手は包丁の柄を強く握りしめていて、突然降り出した雨に打たれ、近くに落ちた雷の音で我に帰る。
このままじゃ、本当に
自分の中にふつふつと湧いていた殺意を、必死になだめて家に帰った。
その時、会う約束をしていた友人からメッセージが届いていたことに気づく。
【待っていたのに、来なかったね。何かあった?】
影山はずぶ濡れのまま、今日起きた出来事を友人に話した。
*
「————といことで、今二階堂家の執事になるということは、将来、二階堂総合病院長となる美月お嬢様を補佐する立場になると言うことを、忘れないように」
副島から執事の仕事について教わってた影山。
これで家庭教師として雇われていた頃より、自由に二階堂家の中を歩けると思っていた。
父親の愚行も、全ては二階堂章介が提案したものだ。
影山は大好きだった父方の叔父が、自殺した理由もこの二階堂章介を含む大物政治家や大手企業の経営者などが秘密裏に参加している秘密クラブのせいだと知った。
若い女を金で買う権力者も、その金で平気で体を売り、宿った命さえ簡単に切り捨てる女たち、影山は許すことができなかった。
彼女たちにもまた、独自のコミニティが存在している。
パパ活といえばまだ聞こえはいいが、明らかな売春だ。
影山は
これはそんな汚い大人たちへの警告、そして、少女たちへの罰だ。
一人を監禁し、拷問し、また一人、また一人と芋づる式に罪を犯した少女たちに罰を与えていく。
その中枢である二階堂家に自由に出入りできるようになった。
執事という立場が、どれだけ動きやすいかよくわかっている。
それに————
「あら、研修中だった?」
「美月お嬢様、何か、ご用でしょうか?」
「別に大した用はないわ、副島。ちょっと葉月のことが気になるから、葉月に会いに行こうと思って……研修が終わったら、葉月のところまで送ってくれない?」
「かしこまりました。終わり次第、お部屋にお伺いします」
「よろしくね」
美月はひらひらと手を振って、自分の部屋に戻って行く。
影山は恍惚の表情を浮かべ、純粋無垢で美しいその後ろ姿を見つめる。
何にも汚れされていない、品格のある本物の美しさ。
影山にとって、美月は崇めるべき神のような存在だった。
「いやぁ……本当に美月お嬢様はお美しいですね。天使のようで……」
影山より先に仮採用された青年は、うっとりしながらつい思ったことを口に出してしまう。
「こら、研修中だぞ」
「す、すみません」
副島は彼を叱りつける。
「いいか、間違ってもお嬢様に変な気を起こすんじゃないぞ? そんなことがあれば、クビどころじゃ済まない……切腹だ」
「せ、切腹!?」
青年は焦る。
影山は彼の反応が面白くて笑ったが、目は美月を最後まで追っていた。
「まさか、江戸時代じゃあるまいし……」
「そ、そうですよね。冗談はやめてくださいよ! 副島さん!」
副島は一つ咳払いをしてから、研修を続けた。
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