管理室には、横に三つ、上に一つ計四つのモニターがあった。

 それぞれ、上のモニターに屋敷の監視カメラ映像が全て縮小表示されていて、横に並んでいる三つのモニターには、上のものより大きなサイズで分割された一部の映像が表示されている。


 日吉さんが簡単に操作方法を教えてくれて、すぐに私は過去の映像も確認できるようになった。


「屋敷の監視カメラの他にも、病院の映像もここで確認できるようになっていますし、二階堂家の所有する車のドライブレコーダーの映像もこちらからアクセスして確認できるようにできています。使用人たちのスマートフォンには、GPSがついていますので、そちらの記録なども」

「……すごい……もしかして、日吉さんがなんでも知っているのは、この管理室のおかげ?」

「ええ、それも一理ありますね。まぁ、この今のシステムに改良したのは、ですから。監視の目を盗んで行動することは可能でしょうね」


 あの男————レオンのことだと話の流れから察しがついた。

 日吉さんは、レオンが子供の頃から知っていて、他の使用人たちもみんなそれまでレオンと名前で呼んでいたのに、口に出すのは憚れているみたい。


「……私、レオンのことを調べているなんて言ったかしら?」

「違いましたか? 葉月お嬢様は、あの男が犯人ではないとお考えだと聞いておりましたので……てっきりそうかと」

「間違ってはいないわ。ただ、どうしてわかるのか聞いてみただけよ」

「左様でございましたか」


 本当に、日吉さんはなんでも知っている。

 私はただ、気になることがあるとしか言っていないはずなのに、それだけでわかってしまうなんて……


「音声は録画されていないの?」

「ええ、監視カメラにマイクはついていませんので……ドライブレコーダーでしたら車によりますが何台か……」

「そう……もう下がっていいわ。あとは私一人でいいから」

「かしこまりました……」


 日吉さんが管理室を出て行ったのを確認すると、私はすぐに事件が起きたとされる日付の映像を検索した。

 隼人のお姉さんが誘拐されたあの映像の前後。

 クリスマスイブの夜、レオンはどこにいたのか————もし、監視カメラに映っているなら、レオンは犯人じゃない。


「……あった」


 そうして私が見つけたのは、クリスマスイブ。

 12月24日の夜11時30分頃の映像。

 レオンが自分の部屋から出て行く様子が映っている。


「えーと、ここからこう行ってるから、次は————こっちのカメラね」


 カメラを切り替えて、私は当日のレオンの行動を追った。

 レオンは自分の部屋を出た後、お母さんの部屋のドアを叩く。

 すぐにドアが開いたけど、外開きのせいでレオンの姿はドアに隠れて見えなくなる。


 お母さんと、何か話をしているのかな?

 お姉ちゃんのことだろうか。

 お姉ちゃんの執事だったレオンは、毎日お母さんにお姉ちゃんの一日の行動を報告していた。

 きっと、この日もそうしているんだろうと思った。


 ドアが閉まって、レオンの姿が消えている。

 お母さんの部屋に入ったみたい。

 監視カメラは部屋の中には設置されていない。

 廊下やリビング、キッチン、玄関、庭の一部についているけど……

 私はレオンが出てくるまで映像を早送る。


「……え?」


 でも、レオンは約三時間、お母さんの部屋から出てこなかった。

 あのドライブレコーダーの日付は12月25日午前1時22分。

 その時間、レオンがお母さんの部屋を出たのは、12月25日午前1時32分。

 レオンに、隼人のお姉さんの誘拐は不可能だ。

 やっぱり、レオンは犯人じゃない。


 でも、私は気づいてしまった。

 今までずっと、お母さんがレオンを部屋に呼ぶのは、お姉ちゃんのことを聞くためだとばかり思ってた。

 それだけじゃなかったんだ。


 お母さんの部屋に入る前、レオンはちゃんといつものようにきちんとネクタイをしていた。

 それが、出た時には手に持っていて、いつも上まできっちり閉めていたシャツのボタンも開いている。

 髪も正面は整えられていたけど、後頭部は乱れていた。


 お母さんは、レオンとそういう関係だったんだ。

 ああ、そうか……だから、お母さんだけは、レオンが犯人じゃないって、そう言っていたんだ。

 この監視カメラに映像が残っていることは、レオンもわかっていたはず。

 これを見せれば、犯人じゃないことは明白なのに、レオンが言わないのは、お母さんとの関係を知られたくないからか……



 ————気持ち悪い。

 何これ、お母さんが浮気?

 お父さんを裏切って、レオンと?

 いつから?

 いつから、私たちを騙していたの?


 ……ああ、そういえば、お姉ちゃんが前に言っていたっけ。

 レオンは昔、大恋愛を経験したことがあって、それからもう恋愛はこりごりなんだって……

 もう結婚も諦めてるって……


 嘘ばっかり。

 何が大恋愛よ。

 不倫じゃない。

 ただの、不倫じゃない。


 大恋愛?

 聞いてあきれるわ……

 それに……


「……不倫ぐらい何よ。人殺しにされるより、マシじゃない」


 死刑になるかもしれないのに、なんで、本当のことを言わないのよ。

 バカみたい……


 私は須見下さんと伊沢さんにこのことを話そうと思った。

 レオンは犯人じゃない。

 不倫を隠してるだけ。

 レオンに人殺しなんて、できるわけない。

 犯人は、別にいる。


 そう、確信したのに……


「ああ、充電が……」


 スマートフォンの充電がなくなりそうになっていることに気づいて、私は管理室を出た。

 充電しながら、電話をかけようと……


「えっ!? レオンさんが!?」


 その時、キッチンの方からメイドたちが話している声が耳に入る。

 この声は、繭子さんだ。

 一体何があったのか、気になってキッチンの方へ行くと、やっぱり繭子さんの声で……


「死んだって……そんな————どうして?」


 繭子さんは、泣いていた。

 拘置所にいたレオンが死んだと、泣き崩れていた————


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