ワンピース
ここはどこだろう。
気が付くと私は、足元を照らす万灯篭の揺らぐような光がポツリポツリと先導する道をゆっくりと歩いていた。
でも不思議と怖くも心細くもない。どこか懐かしい場所なのだろうか。
灯りが示す道を疑う事もなく歩を進めていくと分かれ道に来た。
どちらの道も今までの道より明るく照らされている。
「あなたの人生、どうでしたか?」
そう問いかけられて、私は辺りを見回した。
誰もいない。『空耳か?』と思って上を見上げても真っ暗で何も見えない。
すると、さっきと同じ調子でもう一度。
「あなたの人生、どうでしたか?」、
と同じ質問が繰り返された。
私は無難な人間だ。良くも無く悪くも無く、を目指して来た。
どっちに転んでも、面倒なのを見てきた。中っくらいが目立たず受入れられ易く丁度いい事を早くに学んで、その教訓を胸にずっと生きてきた。
『んんん…至って無難…ってのは正解じゃないよな…』
と思った瞬間、二手に分かれる道を照らしていた光がプシュンと音を立てるかのように消えて、それまで気が付かなかった脇の細い道が照らし出された。何となく嫌な予感がして、さっきまで前に伸びていた大きな道の方へ歩こうとするが何歩進んでも目の前は真っ暗で右斜めに伸びる脇の小道がついてくる。試しに足を速めてみたが、結果は同じ。小走りしてもダメだった。ちょっと息を切らして立ち止まり、小道を見つめた。
「こっちなんですね…。」
諦めて、仕方なくそちらに進んでいくと、程なく足場が悪くなり勾配も急になってきた。何度も転んではズズズッと滑り落ちたが、引き返そうにも今登ってきた道に既に灯りはなく、登るしかない。延々と続く坂道。辛い事や面倒な事はなるだけ避けてきたから、こんな急な坂を上るのはずる休みし損ねた中学の時の遠足以来だ。震える重い足と息苦しさしか考えられなくなっていた時、さっきの質問が蘇った。『人生って…、まさか、もう終わっちゃった?』
汗が流れて目に入った。袖で汗を拭うと、何だかスベスベしていて全然汗を吸わない。改めて見ると、見覚えのある花柄の七分袖。前に友達に「絶対似合うよ!」、と勧められて買った大してお気に入りでもないネイビー地に小さい花柄があしらわれたワンピースだった。で、極めつけは足元の底厚のサンダル。周りへの馴染みやすさを基準に物を選んでいる自覚はあったが、それがこんなにも自分好みとかけ離れているなんて思いもしなくて、ハッとした。
「そう、これね。これで山道ね。」おかしくなって、ククッと笑うと、どんどん笑いがこみあげてきて、座り込み
「着替えあるかな?」、と自分に声を掛けていた。
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