コイ

「風間さん、最近化粧品変えました?」

「えっ?ううん。何で?」

「じゃ、恋ですか~?なんか、肌、つやってますよ!」

ユウに会いたい思いが、思わぬ効果を生んでいる。


10日ほど前に夢でユウの袖を掴んでから、枕を買い替えるだけでは飽き足らず、睡眠の質を高めるとかいう柄でもないアロマとやらまで試し始めた。眠っている時間をなるだけ長くして、今度また夢でユウに会えた時に、一緒に過ごす時間を少しでも増やすためだ。お茶好きで一日中お茶を飲んでいた私が午後のカフェインも控えている。おかげで、ここ1週間程は、朝の目覚めが随分良くなって、持病の偏頭痛も落ち着いて、肌の調子も良くて、何なら体調もいい。「恋」なんてしていないけど、ユウに会いたい思いに「恋」に似た効能があるというのは凄い事だ。自分でも不可解なユウへの強いこだわりには、付き纏い禁止通告を受けた事もあって、後ろめたいような気持ちばかりが先行していたけれど、それがある意味恋の様なものかもしれないと思うと、ちょっとロマンチックで運命を感じる。


「まぁ、そんなとこかな。片思いだけどね。」、と冗談っぽく返した。外見を褒められる事なんて縁遠いと思っていたけど、たまにはこうして、ちやほやされるのも悪くない。


ただ、問題はあれから一向にユウに会えていない事だ。

色々調べてみると夢を見るのはレム睡眠中。眠りに落ちた時から数時間おきに短いレム睡眠が訪れるらしい。夢は大抵起きる直前に見たのしか覚えていない様なので、一晩中寝てしまうと、その眠りの途中に見ている夢は覚えていない事になってしまう。

「もしかして、実は会ってるけど、覚えてないだけ?」、と疑心が生まれ、先週末は試しに2時間おきぐらいに音楽が流れる様スマホをセットしてみたりもした。確かに目は覚めるし、途切れ途切れの夢も見るようになった感はあるが、やっぱりあの子には会えていない。


あの子とはもう会えないんじゃないかと悲観的になっていた時、見ず知らずのから「願い事が叶う」という赤い鈴のついた掌サイズの小袋をもらった。あの時も今も私の願いはただ一つ、ユウを守る事。実はそれまでも夢でユウを見ていた。でもあの娘に会った直後見た夢の中でのあの子は、はっきりと実体を伴っていた。「アレの力かもしれない。」と直感的に思った。


それから、夜寝る前にはいつも、目を閉じ気持ちを落ち着けて、あのお守りを両手に取る。そして、心を込めて願掛けする。

「どうか、今晩こそあの子に会えますように。何なら遠目で見るだけでもいいんです。元気にしてる事さえ分かれば!」


表面上は欲のない謙虚な願い。でも本当は、イヤに現実的なあの夢は実在する場所の様な気がしてならない。夢にあの子に辿り着くヒントがあるに違いない。自分ながら、ちょっと正気の沙汰ではないのは分かっている。だけど、ようやく縋れる物を手に入れたのだ。とことん縋るしかない。


そして、今日も期待を胸に布団へ入る。

うん。やっぱりこの枕はしっくりくる。





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