第13話 うずもれる
「いやぁ。この回好きだったんでようやく見れてうれしかったです。」
「でもやっぱり、どうしてこれが現在まで『封印作品』扱いだったのかが気になりますね。」
「だって、『この厄獣は実在するから放送するな』って、どう考えてもクレーマー側がおかしいこと言ってるのになぁ。」
先日、ゴールデンタイムにて放送された「今夜決定!昭和特撮ヒーローランキング!」を、読者はご覧になっただろうか。
本日は、そこで34位にランクインした「跳躍超人 ホッピングマン」におけるある封印回にまつわるお話である。
まず、SNSのおすすめから本記事にたどり着いた若い読者の為に、上記ランキング番組の内容を要約する形で、顛末を説明しよう。
「跳躍超人 ホッピングマン」とは、70年代初頭から半年クールごとに作成された「超人」シリーズの第三作目である。
このシリーズは「子供たちが体育の時間に憧れる特技を持ったヒーロー」という触れ込みで、地元撮影所で製作された。
しかし当時全国放送の枠が見つからなかったため、撮影所付近地域でのローカル枠のほか、全国映画館で上映された編集版にて放映されていた。
ホッピングマンは、上記ランキング番組でも28位にランクインした一作目の「疾走超人 ダッシュマン」
51位で惜しくも放送枠を逸した二作目「投擲超人 スローマン」(こちらの人気が低いのはストーリーラインが当時人気だった野球漫画とほぼ一致していたが故だろう)
に続く作品として作成された。
当時ではまだ珍しかった撮影技法や、ホッピングマンの跳躍能力を生かしたシリアスとギャグが絶妙にメリハリを利かせているシナリオ。そして何より、今では昼ドラと演歌の女帝として有名な○○が、女性隊員役として女優デビューしたことで有名な作品である。
そして当該の封印回「第25話 掘り起こせ!厄獣ウズメルン!」放送時には、このシリーズとしては初めての1年放送が決定し、全国放送特番も決まっていた。
その矢先、この放送内容にあるクレームがつくことになる。
「この話の厄獣は、我が地域にて祀られている『うずみ様』と酷似している。」
「この話が広く広まることにより、『うずみ様』の所在が知られたらどうする。」
「当該放送回のフィルムは、速やかに破棄してほしい。」
ある山間地区の集落からこのようなクレームが制作会社に「500件近く」寄せられたらしい。
結果、当該作品は封印され、この騒動を問題視したスポンサーが降板。(学校向け服飾メーカー。ちなみに騒動を支援団体にせっつかれたために降板したことを、のちに社長が自署で明かしている)上記の構想はお流れとなった。
またシリーズ自体も次作品の「遊泳超人 スイムマン」における大幅な路線変更と裏枠のバラエティー番組が社会現象レベルの人気を博した事により大コケ。それに伴い撮影所も大赤字を抱え倒産。短い歴史に幕を下ろすこととなった。
しかし映像は制作会社がテレビ局に直接フィルムを独占販売という珍しい方法も功を奏し、この時代にしては珍しく今でも全話が無傷で残っている。
そして当該局が長期休みのたびに再放送と称してシリーズを放送し続けたことにより、今でも地域のローカルヒーロー的な立ち位置として、住民に支持されている。
しかし、ウズメルン回だけはつい近年までかたくなに再放送されなかった。しかしその禁が解かれたのは3年前の夏。再放送ローテーションがホッピングマンの年であった。
当該地域から「あの事件は水に流して、ぜひとも放送してほしい」とオファーがあったそうだ。
当該回放送時には地元ニュース番組が特番を組み、全国が大雨被害のニュースで埋め尽くされる中、普段の放送時間をわざわざ1時間ずらしてゴールデンタイムの手前に放送されたという事を見るに、この地域でいかに「超人」シリーズが愛されていたかがわかる……。
というところまでが、ランキング番組で放送された部分である。しかし弊誌弊部は「怪談記事専門」。となれば疑問は
「『うずみ様』……。一体どんな怪異なんだ。」
「そしてクレーム入れた奴らはどんな影響下にあるのか。」
そんな疑問に答えてくれたのは、まさに当該回の執筆をした脚本家であった。
「懐かしいねぇ『ホッピングマン』。これ書いてた当時は20代なりたてのひよっこだったっけ。」
こう語るのは、当時制作会社で超人シリーズの脚本を担当していたAさん(仮名)今回、うずみ様について知っていることがあるかとメールしてみた所。忙しい時間を割いて、インタビューに応じてくれた。
早速、うずみ様の話について伺うと
「いやーあの回ね。当時は参りましたよ。電話は四六時中ジャンジャカ、手紙に至っては郵便局員にいやな顔される量が来たし。」
「でも、脚本自体は全然問題なかったんですよ?記者さんも見た通り。いつものホッピングマンだったでしょ。」
そう、この封印回が記者の目に留まったのは、何も怪異センサーの反応だけではなく、「その回の内容とクレームがかみ合ってない」という点もある。
下に箇条書きであらすじを記載する
・夏休み、レギュラーメンバー(厄獣対策隊)は、少年隊員の祖父母が住む田舎へと遊びに行く。
・しかし、その田舎では物や銅像、終いには家まで地面の中に埋まるという事件が相次いでいた。
・そこで隊員が厄獣図鑑にて調べると、「ウズメルン」という地面に住む厄獣がエサを食べるときにそうするのだと判明。しかしその途端、隊員を始め町の人々が埋まり始める。
・少年隊員の「助けて!ホッピングマン!」の呼びかけに応じホッピングマン参上(これはいつもの流れである。)ホッピングマン、特殊能力の「ホッピングシェア」により住民たちの跳躍力アップ。脱出に成功する。
・これによって住民は助かるが、パワーを分け与えたことにより今度はホッピングマンが埋まり始める。隊員、ホッピングマンが埋まる前にウズメルンを見つけ出さんと奮闘。
・結果ウズメルンは地元にできた砂防ダムを根城にしてることが判明。それおうぉっピングマンに知らせると、ホッピングマンは力を振り絞り必殺技、「ホッピングストンプ」(キック技)をそのダム底に向けて放つ。
・結果ウズメルンは退治されたが、砂防ダムで堰き止められた土の底にはかつて村があり、田舎はそこから移り住んだ住民の集落であることが判明。「埋められてるって、知らせたかったのかもな。」という少年の一言で物語は幕を閉じる。
「ね?確かにまぁ全国の似たような境遇の村からクレーム来てもおかしくないかもなって、今の時代だったら思うけどさ。当時はこれベタの部類に入る話だったし。」
Aさんは煙草を燻らせながら、不満げに記者に話す。
「それに俺元ネタありきでこの話書いたわけじゃないよ?思いついたのもどっかの村で砂防ダムの建設反対運動が起きてるみたいなニュースからだったし。」
「しかもクレームの内容がまたおかしいんだって。まぁたまたまアンタらの村にいる神様と厄獣がダダ被りだったんでしょう。」
「でも見つかっちゃ困るって何よ。見ての通りホッピングマンは基本全編ジオラマ撮影。一部の会話シーンだけそこら辺の民家でやっただけで、ダムシーンに至っては完全に水槽。そっから特定の場所なんて見いだせるわけがない。」
「やっぱ俺今でも思うわけ。このクレームは、俺を脚本から降ろしたかった奴の嫌がらせだって。現に俺超人シリーズやめて昼ドラ制作の会社に移ってから一山当てたわけだし。一方で奴さんは俺いなくなったとたんシリーズ終了でしょ?ざまぁないって。」
「まぁでも、今の俺があるのは『うずみ様』様様だってことかな。だってそのおかげで正しく世間が俺の才能を認めてくれたわけだし」
Aさんの口調がヒートアップしてきたところを見計らって、記者は切り出す
「うーん。じゃぁやっぱり存在しないんですかね。『うずみ様』」
その一言に、Aさんの顔が一瞬凍り付いた。
「だとしたら、どうしてAさんは僕のメールに反応してくださったんですか?」
「だって僕、『ウズメルン』の話が聞きたいとは、一切メールに書きませんでしたよ?」
記者が畳みかけると、Aさんは一瞬考えこむような顔をし、記者との会話を反芻した。すると
「あっ、あ、あぁっ!」
なにかに気が付いたように目を覆い、しばらく
「ウズメルン……うずみ様……。」
そう繰り返したかと思うと、消え入りそうな声で。
「……。取り返しのつかないことしましたね。俺。」
「……そのようですね。」
その場には、ただ泥の陽に重苦しい沈黙だけが流れていた。
事の真相はこうである。
当時、Aさんは自分の才能を無駄遣いする制作会社に腹を立てていた。
そこに、別の制作会社から引き抜きの話が舞い込んできた。
しかし、今の制作会社との契約は「ホッピングマン」終了まで切れないようになってり、しかもその「ホッピングマン」は半年の延長が決まる寸前。
そこでAさんは一計を企てた。そう、嘘のクレームで自分自身を降板させてしまおうという作戦である。
「当たり障りはない。でも確実に誰か心当たりがあるような話。そん時ダムのニュースを見て、閃いてしまったんだ。」
そしてそのクレームにより奇特性を付与しようと生み出されたのが、当たり障りのない厄獣「ウズメルン」と、語感の似た土着信仰っぽい神様「うずみ様」だったらしい。
「後は、ニュースで見た地名から手紙来たことにした。手紙書いたり電話かけたりは、資金繰りが火の車でスポンサー降りたがってた服飾会社の奴が、協力してくれたよ。」
結果作戦はうまく行き過ぎるほどうまくいき、埋もれた才能は全国に羽ばたいた。
しかし、その犠牲にある一つの村が土の底に埋まる結果となった。
「実は三年前のインタビューの時点で、『ウズメルン』と『うずみ様』がごっちゃになってるってのは、指摘されてたんだ。んで、その時に村に電話したんだよ。ひょっとして似たような神様いますか、いたらごめんなさいって。」
「……。今の今まで忘れてたんだ、そん時の答えを。」
記者が身と精神を案じ、それ以上はいいと制するも、Aさんの語りは止まなかった。
「『うみてあなただったのですね』」
「『ありがとうございます。おかげでなまえがつきました』」
「『ちかぢかすべて うめさせていただきます』」
「……。確かその次の日土砂崩れにあったんだよな。その村。」
「ホッピングマンの再放送終了と同時に。」
「俺の嘘が、本当になっちまったんだ。」
そう言うとAさんは慟哭の叫びをあげた。
ちなみにその土砂崩れでは、当時村にいた25世帯34人が犠牲になっている。
そして村人はなぜか一人も、行政の避難指示に応じなかったという。
ちなみに今度TV局の配信サービスにて、超人シリーズ全話が配信開始されるのだという。
当然当該封印回も、実在の地名とは関係ありませんといういつものテロップとともに、配信される。
興味のある読者は、一度ご覧になってはいかがだろうか。
※当記事はあくまで関係者の話と記者の文章のみで製作されています。そのため、現実に起きた事実とは異なる点が多々ある事をご了承ください。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます