第6話 ゴーストパレス
(連載シリーズ、「ウワサのスポット、徹底調査!」より)
「第○回 恋人の 正体見たり クズ野郎!?老舗でウワサな破局スポット、『ゴーストパレス』に実際行ってみた!」
某有名神社や商業施設、果ては映画館やプールまで。古今東西「デートで行くと別れる」所謂「破局」の名所は、酸味通り越して辛味すら覚える恋物語の終わりと共に、多くの都市伝説を生み出してきた。
一方で、お化け屋敷といえば都市伝説の宝庫。仕掛けも終わった出口での謎の手。映写鏡に映る意図しない人物。誰もが知る有名遊園地から、夏限定の個人モノまで、その噂は枚挙にいとまがない。
そんな、二つの都市伝説が組み合わさった最強(最凶?)スポットが、郊外都市の老舗遊園地にひっそりとたたずむ「ゴーストパレス」だ。
「いやアレはほんとマジで最悪だった。やっぱマッチングアプリで寂しさ埋めようとかダメっすよ。」
そう話してくれたのは今回の情報提供者、Aさん(女性)だ。
聞けば実際、「ゴーストパレス」にて恋人と破局したそうだ。
「いや、アプリ内の会話はめっちゃ盛りあっがってて、デートしててもすっごい楽しかったし。あ、私この人とひょっとしたら結婚するのかな。まで思っちゃってたんですけど。」
「でも、そんな舞いあがりもあのゴーストパレスまででしたね。」
そんな相性最高の二人は、三回目のデートに老舗遊園地を選び、最初の内は最新ジェットコースターや年季の入ったコーヒーカップを楽しんでいたのだそうだ。
「で、最期にあのジェットコースターもう一回乗ろうってなって、だったらこのお化け屋敷通ったら時短になるってアイツが言ったから、そうしよっかって入ったんですよ。」
(追記:ちなみに、このショートカットは地元でも有名だったらしいが、暗所を走って移動する人が多発したため、危険防止の為今は従業員出口と繋げる形で位置が変更されている。「マミー役が包帯ですっ転んでて雰囲気ブチ壊れた」等のクレームがよく来ているらしい)
「お化け屋敷の中?正直子供でも騙されんわってレベルのちゃっちさ。だって外見洋館なのに一つ目小僧のコスプレしたお化け役とか出てくるし。」
どうやら国籍設定はおおらかであるらしく、ゾンビとろくろっくびが同時に出てくる地帯もあるそうな。
「おまけにあのこんにゃくぺローンてやる奴あるじゃないですか?あれが未だに現役ギミックでさwwwwむしろ笑いましたもんねwwww。」
(追記:ちなみにこのこんにゃくも、現在では食品衛生と安全関係上、ジェル式保冷剤に切り替えているのだと言う。ギミック自体は現役なのか……。)
「でも、適度に照明暗かったら、仕掛けアレでも仲好い男女はそれなりの雰囲気になるじゃないっすか。で、私らも『何が来ても君を守るよ』だの『もし私がお化けになっても愛してくれる?』だの『やっぱりジェットコースターやめて隣の観覧車にする?』だの歯の浮くような話しながら出口向かってたんですよ。」
実はこの二人この遊園地デートの後、部屋付き高級ホテルディナーの予約まで入れていたそうな。しかしこの後二人を悲劇が襲う。
「そしたら、出口前で最後のお化けがワッて前に立ちふさがって。そいつも叫ぶ幽霊のかぶり物して、激安ショップで売ってるプラスチックの鉤鎌構えててっていう。明らかに衣装持参の日雇いバイトじゃんみたいなチープさで。」
「そしたらアイツどうしたと思います!?私突き飛ばして叫びながら逃げてったんですよ!?」
何を思ったか彼氏は、彼女を置き去りにしての逃亡を選択した。先ほどまでの威勢のいい言葉は果たして何だったのか。
「あまりにも出来事がありえなさ過ぎて、私その場にあぜんですよね。そしたらお化け役の人が、トントンって肩叩いて、鎌のおもちゃ差し出してくれて。」
「受け取った瞬間、自分がすべきことが分かったと言うか。なんていうか『目が覚めた』みたいなすごいすっきりした感覚になって。」
「出口付近で腰抜かしてたアイツ、鎌でぶん殴ったんですよ。」
後に当時野次馬をしていた証言者によると、「彼氏さんが血まみれになるまで鎌でぶん殴ってた、最期の方彼女さんちょっと笑ってて怖かった」とのこと。
ちなみにAさんは事件の後彼氏とはすっぱり縁を切り、格闘技を始めたとのこと。「情けない奴に蹴りくらわす時が、最高に快感ですね。」と満面の笑みで語っていた。
私がさらに調査を進めた所、他にも同様に恋人と別れた、兄弟仲が悪くなった、親や子を信用できなくなったと言う数多くの報告が寄せられた。そしてそのいずれもが、出口付近のお化け役に出っ食わした後なのだと言う。
一方で、お化け役の対応については皆好意的だった。以下に絶賛の声を紹介する。
「泣いていたのをあやしてくれて、飴もくれた。お姉ちゃんの足バレずに引っかける方法も教えてくれた。楽しみにしていたアイス台無しにしてていい気味だった。」
「有名な探偵事務所の名刺くれた。調査したら5股かけられていたので、そいつら全員から慰謝料ふんだくって離婚した。旦那のキャリアも終わったらしいと後から聞いて気が晴れやかになった。」
「いっその事実家出て上京するようにアドバイスしてくれた。今でもたまに励ましてくれる。おかげでパワハラ上司に離職状投げつけて辞める事ができた。今でも、自分を解放して本来の姿でいる事の大切さを教えてくれたお化けさんには、感謝している。」
という訳で、弊誌記者も早速件の「ゴーストパレス」への潜入取材(という名の一人遊園地)を敢行した。
とはいえ、オープンと同時に突撃してもアレなので、まずはブランチがてら、園内名物のカラメリゼワッフル(3個入り¥500)やバチバチポップコーン(容器つき¥1,000)スパイシービッグレッグ(¥800)タワークレープ(チョコバナナ味¥1,200)を堪能しつつ、ゆったりと現場取材を行った。
そして、いよいよ「ゴーストパレス」に潜入したのだが、ここで読者諸君と老舗遊園地に謝罪する。
本当にちゃっち過ぎて書くことがない。
まず、記者が速足なのもあるが、一人で回ると物の5分もかからずに出口に到達する。それほどに狭い。
また、昨今のお化け屋敷にありがちな謎解き要素やクエスト要素なんてものは一切ない。一切である。ギミックらしいギミックといえば
ヤル気のないお化け役バイト×2(この日はヴァンパイアと猫娘だった。ちなみに衣装レンタルはこの二つか一つ目坊主の三種類だけらしい。例のマミー役は気合を入れて持参していた方だったらしい。)
例のジェル式保冷剤(素材自体は柔らかかったものの、結構な勢いで飛んできて少し危険を感じた。お化け屋敷にそういう意味でのハラハラは不要と思われる)
そして多少のBGMと出てるかどうかも分からないエアーぐらいである。
そして例の出口付近。噂のお化け役は待機タイミングを誤ったらしく、落ちかけていた間接照明の位置を直している最中に出っ食わす事となってしまった。
もはや怖がるとかそういう心理状態にない記者は「すいません大衆週刊誌の物ですが」と、普通に取材モードで話しかけた。
するとお化け役は、指で×マークを作り頭を下げた。どうやらキャラクターを大事にしている方だったらしい。
仕事終わりにお話しいただけますか?と聞着直すと○マークを作って下さったので、夕方落ち合う約束をし、連絡先を交換した。
正午に到達しない内に現場取材が終了してしまったため、記者はお化け役との待ち合わせ時間までを、1DAYパスポートの消化にあてる事とした。
一通り最新アトラクションやキャラクターパレード、ついでに園内グルメを一通り堪能し、取材班へのお土産購入も済ませた所で、
「新聞社の取材でしょうか……。あの件についてはまだ正式発表にはなっていないはずですが……。」と中年女性がおずおずと話しかけてきた。
聞けばこのパークの広報部長らしい。記者が正直に出版社を明かし、都市伝説の取材について話をすると、
「ああ、○○社さん。でしたら経済部門の方に、例の買収記事については概ね本当ですとお伝えください。とはいえ、もう株主さんには周知済みですけどね。」
実はこの老舗遊園地、数週間前から外資系企業への売却が成立したと言う記事が一部報道で出ていた。恐らく弊社でも、株式記事専門の記者がこの件を追っていたのだろう。
そんな事は関係ないので、記者は「ゴーストパレス」について何か知っている事はないか話を聞いた。すると。
「それ皆さんから聞かれるんですよ。なんでも『大切な人の本性が分かる』って噂なんでしょう?」
「でも変ですねぇ。『出入り口付近は危険だから、バイトを配置するな』って関係部署には散々通達してるんですよ。でも、部署はいつも一点張りで。」
「『そんなバイトを配置した覚えはないし、見たこともない』って。」
遊園地閉園後、記者はお化け役との待ち合わせ場所へと向かった。
到着した途端、図っていたように電話が鳴った。
「すいません。現地にはいけなくなっちゃいまして。」
「ええ。わかっていますよ。お化け役さん」
「あー。分かっているなら、『役』の部分外してもらっても結構ですよ?」
「まぁだって私、ホンモノの『お化け』ですから。」
「まず、この『ゴーストパレス』にはいつから?」
「まぁ二桁年はいってないと思いますよ?人増えてまた減ってが5年ぐらいの間だったので。」
「なぜ、ここに憑着を?」
「もーそれ覚えてないですね~。多分誰かに憑いてたのが、拍子でこっちの方がいいやって移ったんだと思います。」
「確かに、破局スポットの噂が流れ始めたのもその位からですね。生前、があるかどうか分かりませんが、その際の記憶は何か残ってますか?」
「こっち来る前の記憶はからっきしないんですよ~。まぁでも一応反応から、女性だったんだなぁって言うのはうすうす。」
「なるほど。」
「で、さっき破局スポットって言ってたじゃないですか?私そう言う認識は全っ然なくって。今日朝話聴いててなんか申し訳ないなー。って思っちゃって、一日人前には出ませんでした。」
「一日接触断って、今存在濃度はどうですか?」
「何ともないですね~。こりゃ相当有名な噂なんでしょうね。」
「ちなみに、出現頻度はどのくらいですか?」
「一応いっつも同じ場所にいますよ~まぁ見える人見えない人、半々ぐらいですかね。」
「まぁ見えちゃった人の半分は、すごい顔して逃げ出しちゃいますけどね。」
ははは、とどこか空疎な笑いを怪異が上げた所で、記者はいよいよ本題へと入った。
「あなたの影響下に入った人間は、比較的女性が多いように思えますが。」
「それは特に選んでないですよ?まぁ、私怖がるのが男性が多いってだけで。前の姿と、何か関わりあるのかしら。」
「では、何故あなたの影響下に入った人間は、皆怪異化の兆候が見られるんでしょうか」
先ほどまで騒がしくどこか楽しそうであった向こう側が、急にしんと静まり返る。沈黙を裂く様に記者が畳みかける。
「まず、今回あなたの影響下に入った方、つまり怪異化が見られた方は、積極的、むしろ積極的過ぎるぐらいにインタビューに答えて下さいました。」
「そして皆、数々の事情を抱えながらも、あなたを人生の転機だと讃えていました。」
「あら、それはうれしいですね。」
「しかしその反対側、『置き去りにして逃げた』側に取材いたしますと、皆一様に同じ事を言ったんですよ。」
「それはなんですか?」
「『横にいた奴が化物だった。あの時逃げて良かった』ってね。」
「……。」
「弊誌専門家がよく言ってるんですよ『怪異というのは気の迷いで誰だって成る可能性がある』」
「『でも迷いを恣意的に生み出す存在は、人において害や』ってね。」
しばのし沈黙。後、消え入りそうな声が電話口から漏れ出した。
「……。寂しかったんです。」
「ここにきて最初のうちは、私のことなんか誰にも気づいてもらえなくって。」
「このまま消えていくんだろうな。寂しいなって思ったときに、一人のカップルが私のこと見つけてくれて。」
「その二人は、ちゃちーとか言ってそのまま去っていったんですけど、その時のうれしさったらなくって。」
「それから私、頑張ってもっと多くの人に気づいてもらおうって努力始めたんです。」
「これ一個不思議なんですけど、こうしてお化けやっていると、人の気持ちがよくわかるっていうか、『人間』がよく理解できるようになってるってか。」
「そりゃ、お化けは純粋な精神衝動体とも言い換えできますから、当然……。」
「それでですね!いつしかあ、この子もしかしたら一緒になれるかもって子の見分けがつくようになってきたんですよ!で、実際手助けしてみたらドンピシャで!」
「実際、あれから何回も通ってくれて、『お化けさんみたいになりたい』って子も最近は出始めててとっても嬉しい!もっともっと仲間増やしたいって」
「思うと同時に、そろそろ消えるべきなのかなぁって。」
はしゃいでいた向こう側の声が、急に沈む。もう一つの端末で、専門家や関連組織の電話番号を検索していた、記者の手が止まる。
「多分、記憶なくす前の私って、絶対そっち側だったと思うんですよ。」
「だとしたら、例え素質があっても、勝手にこっち側に牽き込むのは多分よくないこと、ですよね。」
向こう側の声にノイズがかかり始める。それに構わず、声は話し続ける。
「……。買収の話、実は前から知ってたんです。『ゴーストパレス』は取り壊されて、資材置き場になるだろうって誰か言ってました。」
「そうなったら、いよいよ私の存在なんてみんな忘れてしまうんだろうなって。」
「だから、今日自分が都市伝説になってるって知って、結構嬉しかったんです。」
「例えいなくなっても、誰かの思い出の中では、生きていけるなって。」
向こう側の声がだんだんと、か細く弱くなっていく。
反比例して濃くなっていくノイズをかき消すように、弊誌記者が向こう側に告げた。
「いやいやいやいや、いい話っぽく勝ち逃げしようとしても無理ですからね。怪異さん。」
「まぁ確かにアンタの存在は都市伝説になって残るでしょう。でもそれアンタ消えられなくなるのと同義ですからね?」
「だってさ、例え資材置き場になっても、『かつてそこには~』みたいな感じで、アンタがやったことの事実は残るわけだし。」
「それに、あの企業が経営するパーク、最初のうちは資材置き場だったけど、2,3年後にはアトラクション。なんて例もいっぱいある。」
「さてここでアンタに聞くけど、今まで毎日のように誰かしらの人間とは接触できて小規模ながら精神捕食もやっていた奴が、2,3年ほぼ供給絶たれて。また急に人間に接するようになったらどうなるよ?」
「ましてや純粋衝動の塊で、現時点でも自分の行為に歯止め効かなくなっているアンタが、だ。」
「……犠牲出してから後悔する理性が、アンタに残ってりゃいいんだがな。」
記者が一層声を張り上げ、言った。
「……そうやすやすと自分の物語に乗ってくれると思うなよ、化け物。残念ながらこっちは人間でも、場数踏んじまってる側だ。」
電話口のノイズはとうに止んでいた。しばらくして、低く歪んだ声で
「あなたたちは、なにものなんですか?」
化け物が問う、記者はその問いを鼻で笑い
「しがない怪談記事書きだよ。無名のな。」
しばらくの沈黙のうち、向こう側が観念したように息をつき、
「これからわたしは、どうなるのですか。」
と、抑揚のない声で問いかけた。
「幸いパーク側は事態を把握している、地鎮祭は『ゴーストパレス』跡地で行うそうだ。」
「一流どころを呼ぶらしいから、存在消失はそこまで待て。それまでは、俺がこの記事を世に出すことによって、存在自体は確保される。」
「ありがとうございます。」
「ただし、やったことのツケは払ってもらう。まずアンタが逃げ出さないように、土地への縛り付け。それと客がアンタを認識できないように出口レイアウトの変更。」
「要するにアンタは残り一か月、一切の手出し無しで人間を見つめ続けなきゃならねぇ。それがやったことへの罰だ。」
「……。温情ありがとうございます。あなたの口調から、てっきり即時消滅かと。」
「オマエの記事で飯食わしてもらう報酬と、被害者の大半が軽度だからだ。」
「でも不可逆まで行ってるやつもいるから、アンタが望む存在継続はなしだ。」
「わかりました。甘んじて罰を受けましょう。」
「……。ありがとうございます。成れ果てる前に、止めてくださって。」
向こう側の声が震え、涙交じりになる。
「本来俺の仕事じゃねぇ。サボり魔のせいでやる羽目になってるんだ。」
苦虫をかみつぶした声で、記者が答える。
「それでは取材協力、ありがとうございました。」
記者が電話を切ろうとすると、
「すいません!最後に一つだけいいですか?」
向こう側が声のトーンを戻し、尋ねてきた。この期に及んで命乞いか、はたまた次の策かと身構えていたら。
「この年になって、カップル検証する相手もいないからって、流石に子供が描いた相合傘の落書きに中指立てるのは……。」
「うるせぇ。」
記者側から電話を切り、インタビューは終了した。
ゴーストパレスは、パーク一時閉園日まで、毎日休まず営業するそうだ。
人間性に自信のある方は、一度大切な人と足を運んでみてはいかがだろうか?
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