13.汚された廃墟の祭壇にて
「……はあ。順調過ぎて怖いくらいだったけど、これはまた面倒な事を。一体どこの誰だか知らないけれど」
子供がイタズラでもしたのだろうか? それにしては、こんな廃墟の屋上にまで来るのだろうか? と次々に湧き出てくる疑問に自問自答しながら、季節感のない服装にローブを纏ったエルフの少年は呟いた。
つい先日、今日というこの瞬間の為にあらかじめ用意しておいた『儀式』用の祭壇を設置した廃墟までやってきたのは良いのだが。
しばらく目を離していた隙に、あちこちをペンキでラクガキされていたり、ゴミはゴミでも処理が面倒な生ゴミを撒き散らかされていたりとやりたい放題にされていたのだった。
いよいよ、待ちかねた儀式の時間と意気込んでいた彼の高揚感がすっかり興醒めしてしまう程にはひどい光景である。
そして、心底ウンザリした様子の彼の横では。
「んっ、んんんんんんーーーッ!! んーんーっ!!」
「……で。キミはずっとそうやっているけど、疲れないのかい?」
少なくともこの日本には生えていないであろう、ジャングルの奥地にならば生えていそうな極太な植物のツルによって手足を固く縛られ、口を封じる為にそれを無理矢理に咥えさせられた赤髪の少女が、じたばたと転がるように暴れている。
睡眠薬の効果は既に切れてしまったが、なにも眠らせておくだけが彼女の身の自由を奪う手段ではないのだ。それに、眠らせるのも一つの手ではあるが、再び眠らせてしまうと儀式も行えなくなってしまう。少々騒がしくなってしまうが、こうして物理的に自由を奪う事にした。
「さて、まずはこのひどい有様の祭壇を掃除しないと始まらない、か。まったく、わざわざ人目のつかない場所に組み立てたというのに……」
どうしてこの僕が他人のゴミ掃除なんてしなくてはならないんだ、と小さな声で文句を言いながら、渋々片付けを始めようとした――その時だった。
「んんッ、んんんんんんんうううううううううううううううううううううううううううううう――ッ!!」
めきめきめきっ、という嫌な音がした。……赤髪の少女が、あろうことか口に挟まれた極太のツルを力任せに噛み千切る音だった。
「はあ、はあ……。このアタシを、そんなもので止められると……思っていたのかしらああああッ!?」
そして、手足もそれぞれ、赤い竜のものへと変貌する。背中からは真紅の翼が飛び出した。当然、手足を縛り付けていたツルも簡単に引き千切ってしまう。
「げっ、かなり強く縛ったはずだったんだけどなあ。腐っても竜の血を引いているだけはあるみたいだ。大人しくしていれば、キミを痛めつけなくても済んだのに……残念だよ」
「傷めつける? 随分と偉そうな事を言ってくれるじゃない。不意打ちしか能のないエルフ如きが、寝言は寝てから言うものよ?」
「スヤスヤ眠りについていたのはどっちだったかな。……なに、僕は面倒ごとが嫌いだからね。一番楽に進められる方法として、今回は『不意打ち』を選んだ、それだけだよ」
エルフの少年は言うと、ローブの裏から取り出した弓へ魔力の矢をあてがえて。
「さっきも言ったじゃないか。役目を果たさない怠慢なドラゴンじゃ、エルフである僕にすら敵わない――とね」
小さな右手を離し、金色の矢を放つ。……しかし、翼をはためかせて夜空へと飛び上がった
「アンタの矢なんて、来ると分かっていれば当たる訳がないじゃない。さて、このアタシを散々弄んでくれたようだけど、逆に――アタシの本気の一撃、アンタには避けられるのかしらァアッ!?」
住宅街の家々から漏れる光と、星々と月明かりによってほんのり照らされた赤髪のショートヘアに。異形の手足、真紅の翼を携えた《
――ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!! と、唸るような轟音と共に、生意気なエルフの少年の元へと怒りに任せて一直線に突っ込んでいく。
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