11.不自然な落としもの
神凪が今どこにいるかもわからないので、とりあえず帰宅しているという可能性を信じて神凪の家へと向かう。
彼女の暮らすアパートまでの道のりを思い出しながら、走っていると――道端に落ちている事、それ自体が、何かしらの出来事があったと訴えかけてくるような、不自然な物が落ちていた。
「あれって……
道の脇に落ち、寂しげに冬の冷たい風にさらされているそれは、彼の通う高校の指定制服である女子用のブレザーだった。
もうすぐ通い始めて一年が経とうとしている学校の制服を、遠目とはいえ見間違えるはずもない。
その不可解な落とし物に、どこか意味深なメッセージ性を感じてしまった彼は、落ちている女子用のブレザーを手に取って、恐るおそる確認してみる。
何やら、左袖に大穴が開いていた。尖ったものに引っ掛けて、そのまま強引に引っ張ったせいでベリベリと破けてしまったかのような、普通にしていれば出来るはずのない大きな傷だ。
明らかにここで
「俺の記憶が正しければ、確か……」
制服だけでは、それが誰のものだったかを特定するのは難しい。だが、どんなに同じデザインであっても、着る人によって個性は出るだろう。例えば、ポケットに入れている持ち物とか。
上鳴は、勝手に中身を探ってしまう事を心の中でそっと謝りつつ、落ちていた制服、その内ポケットに手を突っ込んだ。
手に触れた何か。それを掴み、取り出してみると――それは、ピンク色で、可愛らしいデザインの描かれたメモ帳だった。
「かな……ぎ? おい、嘘……だよな?」
彼は、このメモ帳を知っている。神凪が制服のポケットに入れて持ち歩いている、それこそ今日の朝、手渡されたメモ紙と全く同じものだった。
それに気づいた瞬間、全身にぞわっと悪寒が走る。震える両手が、掴んでいたメモ帳を思わず落としてしまう。イヤな想像が、彼の脳裏に浮かび上がってくるが、ぶるぶると振り落とすかのように。
一度冷静になれと自分に言い聞かせてから、改めて、落ち着いて周りを見渡してみる。
制服が落ちていた周辺、どこを見ても、血痕といった明らかな有事を示す手がかりは見当たらない。落ちていたブレザーの左袖に開いた穴の周りに、少しだけ血の滲むような跡はあったが、それも命に関わる程の傷ではないはずだ。
ともあれ、大事には至っていないであろうことに気づき、彼は少しだけ安堵する。何かに巻き込まれている事には違いないので、手放しで喜べる訳でもないのだが。
「でも、これって、やっぱり。誰かに追われて……?」
今日、神凪から聞いた話が本当ならば。朝、話しかけられたあの小柄で怪しげなローブの子に、神凪が《
それにしては、朝の出来事から半日も経っていないので早すぎるような……と思いつつも、彼が思い当たるのはそれくらいしかないのもまた事実だった。
「もしかしたら、戦う前に脱いだ制服を、忘れて帰っちゃったってだけかもしれない。そう、だよな? 戦ってる最中に、うっかりスマホを壊しちゃった……ってだけ、だよな?」
そんな理想を自ら口にして、自分で安心感を得ようとしているだけに過ぎないのかもしれない。
だが、今の彼にできるのは――そんな理想的な展開である事をただ願い、無事帰っているだろうと信じて、神凪の家へと向かうことだけだった。
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