第64話

あ~あ、皆んなに泣き虫だってバレちゃったよ・・・




今日は私とドルの結婚式。


21歳の私と、22歳のドル。


お父様とバージンロードを歩いて行く。


周りを見渡すと、沢山の人の中にお腹が大きくなったチェルシーや、少し前に結婚したジュリア達の笑顔が見える。



バージンロードを挟んで、王族の皆さま。

反対側の席には私の大切な家族。


その先にはすでに涙目のドル。




厳かに始まった式。

誓いの言葉を述べた時までは何とか我慢が出来たようなんだよね。


でも・・・お互い初めてのキスをした途端だった。


うん、前世でいうロボットのようなカクカクした動きで触れるだけの軽いキス。


ドルが泣く時は幸せを感じた時だと前に教えてくれた。

今回の涙は・・・うん、滝のような涙だから凄く幸せなんだね。私もだよ。


こんな時の為にウエディングドレスに特別に追加で作ってもらったポケットからハンカチを出して、いつもの様に涙を拭いてあげる。


「幸せだね。今よりもっと一緒に幸せになろうね」


と、ドルにだけ聞こえる声で告げると「必ず幸せにするから、絶対に幸せにするから」と泣きながら大きな声で言うものだから私は恥ずかしかったんだからね!


最初はドルの突然の号泣に、周りも驚いていたようだけれど、ドルのその言葉に微笑ましい眼差しで見る人、一緒に涙ぐむ人、・・・呆れた顔をしているのはアンドリュー王太子殿下に、ルイス兄様、リアム兄様ね。




その後のお披露目パーティーでは揶揄われたり(主に身内だね)したけれど、皆さまに祝福された。




ドルはこの結婚を機に侯爵位を賜る。

私は今日からヴィクトリア・ランサート侯爵夫人になった。




そして初夜。


私は侍女たちに全身を磨き上げられ、薄いナイトドレスを着せられた。


夫婦の寝室となるドアの前で立ち止まってしまう。

内装は一緒に考えたから、寝室の雰囲気も想像がついている。


今日初めてキスをしたばかりなのに、今から・・・


不安は無い。

反対に私の方がドキドキと期待している気がする。

きっとドルは優しく抱いてくれる。はず。


覚悟を決めてドアをノックする。


中からドルの「ど、どうぞ」と、緊張した声が聞こえた。

そっと顔を覗かせると、やっぱりガチガチに緊張しているドルが立っていた。


「ドルお待たせ」


ワザと軽く言葉をかけて部屋に入る。


ああ、真っ赤な顔でもうすでに涙目になっている。

でも、しっかり薄いナイトドレス姿の私を凝視して目を離さないのね。


なんでもスマートにこなせる優秀なドルが、私の前でだけ可愛らしい姿を見せる。


「・・・ヴィー綺麗だ。とても綺麗だ」


一歩、また一歩と私に近づいてくる。


「ヴィーのウエディングドレス姿も誰にも見せたくないほど綺麗だったけれど、その姿は・・・僕だけにしか見せたらダメだよ」


「当たり前でしょう?私はドルのお嫁さんになったんだよ?・・・ドル、愛しているわ」


突然ガバッと、抱きしめられたと思ったらお姫様抱っこされてベットに優しく降ろされた。


上から覆いかぶさり真っ直ぐ私を見下ろして、愛してると口づけられる。

初めは慣れない口付けを・・・それが繰り返され徐々に深く、深くなっていく。


どういう作りなのかナイトドレスはリボンを引っ張るだけで全身が露になる。

ドルの目が私の身体に釘付けになり綺麗だ・・・と何度も愛していると告げながら首から下に愛撫していく。




破瓜の痛みに涙が浮かぶ・・・

でも、私が泣く前に上にいるドルから涙が落ちてきた・・・

うん。幸せなんだね・・・ドル。


私も幸せだよ。


私の胸でポロポロ泣くドル・・・

男女の立場が反対だよ!とツッコミたいが、こんなドルが愛おしい。


その後落ち着いたドルに「もう1回いい?」とお願いされ・・・いったい何回もう1回があるんだ!と思いながらも許してしまう。

回数を重ねる度に激しくなっていくドルに翻弄され続け、目覚めれば真昼間だった・・・


隣にいるドルはすやすやと気持ち良さそうに寝ている。

どちからというと凛々しい端正な顔のドル。

私の視線に気付いたのか、目を覚ましたドルの目がみるみるうちに潤んでくる。

おい!だから!それは!私の役目だろ!


「ドルおはよう」


「これから毎日朝起きて、一番にヴィーに会えるなんて幸せだ」


もう、仕方ないな・・・こんな泣き虫なドルを愛してしまったのだから。


そっとドルの涙を唇で拭う。


うん、失敗したね・・・ドルの中でなぜか開始のゴングが鳴ってしまったようだ。






結婚して4年。


私も25歳になった。


去年、カトリーナが言っていた通り疫病が流行った。

でも、カトリーナが作った薬が国民を助けた。


もちろん、トライガス王国が我が国に攻めてくることもなかったし、ダイアモア王国とも友好的な関係を築けている。




そして、ドルは相変わらず泣き虫だ。


私が第一子を妊娠した事を告げた時も泣いた。


ヴィンセントを出産した時は、今までで一番泣いていた。

ヴィンセントが寝返りをうった時も、歩き出した時も・・・

初めてヴィンセントが「ちーち」と呼んだ時の顔は忘れられない。


そして、第二子の妊娠を告げた時はヴィンセントを抱きしめておいおいと泣いた。


そんなドルは仕事が終わると真っ直ぐに帰ってきて、まず私にキス。


「ヴィー体調はどうだい?無理はしていない?」


必ず最初に私に声をかけてくれる。


「ヴィンはいい子にしていたかい?」


それからヴィンセントを抱き上げてキスをしてから声をかける。


キスの順番で息子にヤキモチ焼いたりしないのにね。


幸せだ~

前世も合わせて今が一番幸せ。

ありがとうドル。

あの時、私を諦めないでいてくれてありがとう。


気持ちは素直に伝える。

これは我が家の教訓。


「ドル、私を好きになってくれてありがとう。私を愛してくれてありがとう。私を幸せにしてくれてありがとう。愛しているわ」



ああ、また泣く~


でも、この光景がずっと、ずっと続いていけばいい。


あの最低だと思っていた彼が、今は泣き虫で最高の旦那様になってくれた。



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これで本編は完結になります。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

明日から番外編を3話あげます。

よろしければどうぞそちらもお読みください。

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