第62話


「・・・ヴィクトリア嬢と、君と会いたかったんだ」




もう気付かないフリは無理ね。


何時からかは分からないけれど、何となくそんな気はしていたんだよね。


だからと言って彼は、私とは適切な距離を取り、気軽に触れてくる事は無かった。


触れたのは・・・足を捻挫した時。

あの時、彼は私を庇って怪我をした。

自分は頭から血が流れていたのに、"男だから顔に傷があってもいい" と私を優先してくれた。

頭から水を被りガタガタ震える私を温めてくれた。


その次は、ちょうど1年前の卒業パーティーの日。

何度目かの過去の態度を謝罪された時。

おやすみのキスを額にされた時だけ。


昔あの場面での彼の態度の理由も今は知っている。

それに、本来の彼が優しい人だという事も知っている。


交換したあの日から、ずっと私のピアスを付けていることも噂で聞いて知っている。


まだ目を逸らさず私の言葉を待っている彼に・・・


リアム兄様には会場から出るのはダメだと言われていたけれど・・・そっとリアム兄様の方を伺うと微笑んで頷いてくれた。


「・・・少しお話しますか?」


「っ、ありがとう!!」


話すって言っただけなのに目元を少しだけ染めて嬉しそうな顔をされるとね・・・。

私も・・・ちょっとだけ照れくさくなってしまった。


1曲を踊り終え、ドルチアーノ殿下にエスコートされながらライトアップされた庭園に出てきた。

会場を出るまでたくさんの視線を感じたけれど、それは仕方がない。

ドルチアーノ殿下が公の場で女性をエスコートした事がないのは貴族なら皆が知っているからだ。




それにしても何処まで歩くのかな?

それも無言だし・・・


連れて行かれたのは噴水広場だった。

去年の卒業パーティーの時もここで話したな。

去年よりもライトアップの加減か幻想的に見える気がする。


「本当は僕にこんな事を言う資格が無いのは分かっているんだ」


ずっと無言だったドルチアーノ殿下が突然立ち止まったと思ったら資格うんぬん言い出した。


「資格?」


「そう・・・僕は自ら資格を失ってしまったんだ」


???


「ずっと後悔していたよ。何度謝っても、ヴィクトリア嬢が許すと言ってくれても、僕はずっと、ずっと後悔し続けるんだろうってね」


律儀だよね。

私が許すと言ったんだから、もう気にしなくていいのに・・・


「だけど・・・それでも、今気持ちを伝えなかったら一生後悔すると思ったんだ・・・」


そんなに思い詰めなくても・・・


「・・・僕は君が好きだよ」


泣きそうな顔で目を逸らさずに伝えてくれた言葉は、私の胸にすとんと落ちてきた。


「困らせてごめんね。でも僕はヴィクトリア嬢が好きなんだ」


「私は・・・」


「返事は聞かなくても分かっているから必要ないよ」


話は最後まで聞け!!


「私は浮気は嫌いです」


「・・・うん知っている」


「疑わなければならない様な行動をされるのも嫌いです」


「うん」


「他の方に余所見するのも許しません」


「うん」


「私はヤキモチ焼きなんです」


「うん・・・?」


まだ分からない?


「だから・・・絶対に裏切らないと約束してくれますか?」


ふふっ私の言葉の意味が理解できた?


「それって・・・」


ダメ押しもしとくか。


「約束出来ますか?」


「は、はい!約束します!」


「では!お付き合いしましょう?」


あ~涙目になってるよ?


「僕の婚約者になってくれるの?」


まあ普通は貴族なら婚約からだと思うよね。

とくにドルチアーノ殿下は王族だもんね。


「いえ?恋人からですよ?それが嫌なら・・・」


「いい!恋人からでいい!」


「では、これからもよろしくお願いしますね」


「うん・・・うん・・・よろしくお願い・・・します」


そんなに何度も頷かなくても・・・


あ~あ、やっぱり泣いちゃった。

ずっと涙目だったもんね。

もう仕方がないな~

ハンカチを出してドルチアーノ殿下の涙を拭いてあげる。

意外と手のかかる男かもしれない。

でも、そんな彼を可愛いと思ってしまう私もたいがい絆されてしまったのだろうね。




・・・ん?

・・・んん?

これは、私の悲願が達成されたのでは?


『泣かす!絶対にいつかお前を泣かす!覚えていろよ!』


想像していた仕返しとはまったく違うけれども、泣かせることはできたよね?


まあもういっか~

ポロポロと綺麗な涙を流す殿下が見られたのだから。


「僕は絶対に浮気はしないから!」


「はい」


「絶対に余所見もしないから!」


「お願いしますね」


「だから!僕も・・・ヴィーと呼んでもいい?」


「いいですよ」


「僕のことはドルと呼んで欲しい。ダメかな?」


「はいはい、分かったからドルは泣き止んでね」


泣きながら宣言と要望も言えるって器用だな!


「うん、ヴィー本当にありがとう!」


カトリーナが誰のことを言っていたのか分かっちゃった。





ドルが泣き止んで、ついでに疑問に思っていたことを聞いた。


身体付きが変わっていた理由は・・・

リアム兄様に弱いからと鍛えられたからだそうだ。


リアム兄様・・・

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