第61話

リアム兄様にエスコートされて会場に入るなり、皆んなの視線が集まった。

だってリアム兄様は素敵だからね!


参加している、2年生と1年生はリアム兄様を知らない人も多い。

一度リアム兄様に教室まで送ってもらった時に、騒ぎになってから登校時には馬車の中から見送ってもらうようにしたんだけどね・・・カトリーナ待ち伏せ時にも一度顔を出しちゃって、婚約の申し出がエラいことになってしまったそうだ。


そりゃあね、次期侯爵家当主だし?見目も最高峰だし?性格も穏やかで欠点らしい欠点がないリアム兄様だからね、仕方がないとは思うのよ?


怖っ!ジリジリと令嬢が近寄ってきている。


「人集りが出来ていると思ったら、ヴィーとリアム殿でしたか」


振り向くとチェルシーと明日旦那様になるラシード様。

その後ろから、ジュリアたちも婚約者を連れて集まってきた。


「ラシード殿、チェルシー嬢、いよいよ明日結婚式ですね。おめでとうございます」


「ありがとうございます」


私たちの中で一番年上なのに、控えめで腰が低いよね。


なのにチェルシーは・・・


「ありがとうございます!明日の夜の体力温存のために私たちは早々に引き上げますのでご理解下さい」


「そこは結婚式の為じゃないの?」


チェルシーの隣でラシード様が真っ赤になっているからやめなさい!


「私は別に結婚式も必要なかったんだ。ラシードがどうしても結婚式を挙げたいと言うからするだけだ」


そ、そうなんだ・・・


「結婚式がなければ、今日の日付が変わった時点で押し倒している」


「チェルシー嬢?それぐらいで止めてあげて?」


ラシード様はさっきよりも赤くなって頭から湯気が出そうになっている・・・


「ラシード様、こんな子ですけど末永くよろしくお願い致します」


チェルシーの言動にヤレヤレと困った顔をしていたジュリア達も一緒に頭を下げる。

そんな彼女たちも婚約者様と仲が良さそう。


私たちが談笑をしていると、学院長のパーティー開始の挨拶が始まった。

去年の卒業パーティーを思い出す。


カトリーナも13歳になった。

ベニー副隊長は、人が変わったように女性からのお誘いはすべて断るようになったとか・・・。

17歳のカトリーナに一目惚れしたらしいベニー副隊長は、12歳のカトリーナにも惹かれたようだ。

一回り以上年の差があるにも関わらず、カトリーナには頭が上がらないようだと、リアム兄様がこっそり教えてくれた。


「ヴィー、パーティーの始まりだよ。踊ろうか?」


リアム兄様が差し出してくれた手に手を添えてホールの中央に歩いて行く。

チェルシー達も同じように婚約者様と音楽に合わせて踊りだす。


チェルシーを筆頭に次々と結婚していくのが嬉しいのに、少し羨ましいような、寂しいような、今日を最後に会うことも少なくなると思うと、やっぱり寂しい・・・。

ああ、明日はチェルシーの結婚式に参加するから会えるか。


「ヴィーはダンスも上手くなったね」


「ふふっいつもリアム兄様に相手をしてもらっていますから」


曲が終盤に入ると、令嬢達が近づいて来るのは気の所為ではなく、曲が終わると同時にリアム兄様をダンスに誘うつもりなのね。

その中には普段大人しい子もいるし、少し離れたところでリアム兄様をウットリ見ているだけの子もいる。


「リアム兄様。卒業の記念に彼女たちとも踊ってあげてくださいな」


「う~ん、ヴィーが言うならそうしようかな?でも、ヴィーは誘われても会場から出たらダメだよ?」


それに笑顔で頷いてところで曲が終わった。


同時に令嬢たちに押し出される様にしてリアム兄様から離れてしまった。


呆然とする間もなく私もダンスを誘ってくれる男性に囲まれてしまった!

これは困る!誰を選んでいいのか分からないし、見たことの無い男性までいる!


今までクラスメイトの令息とは話すこともあったけれど、皆んな距離をちゃんと取ってくれていたのに、グイグイくる知らない男性ははっきり言って怖い。




「ヴィクトリア嬢。僕と踊ってくれるかい?」


・・・ドルチアーノ殿下。

久しぶりに聞いた殿下の声に安心してしまう。


「はい」


「困っていたようだね」


「はい、助かりました」


小声で話しながら、皆んなの踊っているホールの中央よりも端で曲にあわせて踊りだす。

ルイス兄様の結婚式で会った時よりも、ガッチリしたような気がする。


そういえば家族以外と踊るのは初めてだ。


「ドルチアーノ殿下。今日は誰をエスコートされて来たのですか?」


「・・・」


「どうされました?」


返事をしないドルチアーノ殿下を見上げると、耳には以前交換した私のピアスが付いている。


「一人で・・・学院長に無理を言って会場に入らせてもらったんだ」


私から目を逸らしてボソリとそう呟いた。

彼が無闇矢鱈と権力を使うような人ではないと知っている。

何か理由があったのでは?


ドルチアーノ殿下は逸らしていた目を真っ直ぐに私に向けてきたと思えば・・・


「・・・ヴィクトリア嬢と、君と会いたかったんだ」




もう気付かないフリは無理ね。


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