第60話

あれから一年。


明日は私たちの卒業式だ。


この一年、あっという間だった。

その間にあったことと言えば、アリスとマーリンに婚約者が出来たこと。

アリスはこの学院の同級生と、マーリンは元から仲良しだった幼馴染と。


そして、チェルシーにも婚約者・・・いや、卒業式の翌日には籍を入れるから旦那様が出来たこと。

これはチェルシーの一目惚れからアタックにアタックをかさね猪突猛進の如く押しまくり、落としたらしいすごく体格のいい男性だ。

一日でも早く彼と一緒になりたいチェルシーの希望で叶えた結婚だそうだ。


約半年前、夏季休暇明けにチェルシーが頬を桃色に染めて発したのがこれだった・・・


『聞いてくれ!理想の男を見つけた!婚約も結んだ!』


いったい夏季休暇中に何があった?と、私たちも最初は驚いたんだよね。


『あの人を初めて見た時に体に電流が走ったんだ。顔も性格も体付きも性格もすべてが私の理想だ』


なんでも、騎士団の練習に参加した時に出会ったそうだ。

そして毎日練習後に押し掛け落としたそうだ。


年齢は28歳。

今まで女性とお付き合いもした事がない初心な男性だそうだ。

これからも姉御肌のチェルシーが、グイグイ引っ張っていくのだろう。


初めて紹介された時の印象は・・・内気なゴリ○?

背も高く、ガッチリした体格、日に焼けた顔にはつぶらな瞳。体はゴツいけれど優しそうな人。


うん、納得した。

チェルシーは最初からリアム兄様の剣技には惚れ込んでいたけれど、恋愛対象としては見てなかったもんね。

そりゃあ野性的な彼が理想なら、リアム兄様はチェルシーの理想からかけ離れ過ぎているわ。


私はというと、まだ泣き虫な男性とは出会っていない。


あの時カトリーナが『5年後』の私は結婚していたと言っていた。

だとしたら、4年以内には出会えるかも?


それとも未来が変わったから彼と出会う未来も変わってしまったのか?


だからといって焦ってはいない。


あと数ヶ月でルイス兄様とスカーレットお義姉様に子供が生まれる。

私は今から楽しみでその日が待ち遠しい。

男の子でも女の子でも元気に生まれてくれたらいいな。

そして、いっぱい可愛がるんだ~


前世では仕事が忙し過ぎて友達に子供が生まれたと聞いても買いに行く時間もなくて、ネットで選んでお祝いを贈ることしか出来なかったんだよね。




リアム兄様はお母様の実家、バトロア家と正式に養子縁組をした。


今は生活をディハルト家とバトロア家を行ったり来たりしている。

お爺様とお祖母様はまだギリギリ40歳代だし、とっても若々しくてお元気。

小さい頃からバトロア家に遊びに行くたびに私たち兄妹を大切にしてくれたんだよね。

それは今も変わらない。


そして、次期侯爵家当主としての教育を学び始めた。

もともと養子になることが決まっていたから、ルイス兄様と同じ当主教育も受けていた為、困るようなことはなさそうだ。


そして去年結婚をしたアンドリュー王太子殿下には先月、お子がお生まれになった。

名前はクリストファー様。

黒髪金目の可愛らしい男の子らしい。


今年は、ジョシュア殿下とカトリーナのお姉様、アンネリーナ様の挙式が行われる。

王家は祝いごと続きだ。


ドルチアーノ殿下とは、ルイス兄様の結婚式でお祝いの言葉をもらってから会っていない。


なんでも、王家主催のパーティーぐらいしか社交の場には現れないそうだ。

もう、王家にはドルチアーノ殿下しか未婚がいない。

あのドルチアーノ殿下なら、たとえ王族でなくても引くあまただろうに・・・

三男だからある程度は自由なのかもしれない。と勝手に思っている。





卒業式も午前で滞りなく終えて、この後は夕方から卒業パーティーが開かれる。


今日の私のパートナーはリアム兄様。

私と同じくリアム兄様にも、まだ婚約者はいない。



はあ~

帰るなりうちの侍女たちのギラギラした目を見て、悟ってしまった・・・

お母様の命令で今から私を磨き上げるのね・・・逃げられない事は分かっているの。

それに、自分の卒業パーティーなんだから逃げるつもりもない。


でもね・・・手加減はしてね?




・・・・・・疲れた。


本当に疲れた・・・疲れすぎて眠たくなってきた。

少しだけ寝てもいいかな?


「ヴィー、支度はできたかな?」


部屋に入ってきたのはリアム兄様。

騎士団の制服もいいけど、正装のリアム兄様も素敵すぎる!

一気に目が覚めたわ!


「いつも可愛いヴィーだけど、ドレスアップしたヴィーは一段と綺麗だね」


それはリアム兄様の方だわ!

実兄じゃなきゃ惚れるわ!


「その青いドレスに金糸と銀糸の刺繍が素敵だね」


「ありがとうございますリアム兄様。私も気に入っているの。お母様がこの日の為に作ってくださったの」


「さすが母上だ。ヴィーによく似合っているよ。さあ、そろそろ行こうか」



リアム兄様の腕に手を添えてパーティー会場である学院に向かった。


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